09 ハイカラとバンカラ

文聞亭笑一

毎回、今回はどうなるのか・・・とハラハラさせられますが、前回は寄付金も集まり、何とか旅立ちのできる環境になりましたね。

新橋の駅での幾つかの喜怒哀楽・・・あの時代のスポーツについての価値観が雑多に出てきた感じで、面白いと言えば面白く・・・評価の分かれるところでしょう。

我が家の相棒は、3回目くらいまでテレビ桟敷に付き合いましたが、最近は全くおさらばです。

曰く「怒鳴っているばかりで、ストーリが読めない」

たしかに、テレビの音声レベルを下げないと家の外にまで聞こえるほどの大音量になります。

四三役の勘九郎さんの声が、高音で通る声だけに・・・響くんですねぇ。それがまた作者の狙いでもありましょうが、嫌う人は嫌います。怒鳴られているように思うようです。

唐突ですが…ドナルド・キーンさんが亡くなりました。日本人以上に、日本の「情」の世界を理解し、解き明かしてくれた人です。小泉八雲以来の「外国出身日本人」だったでしょうね。

そのキーンさんが、日本に帰化した時に登録した日本名が「鬼 怒鳴門」でした。音をそのまんま漢字にしていますが「怒鳴る」と「鳴門」で「怒鳴門(ドナルド)」とは面白いですね。

そう言えば・・・今のアメリカの大統領も「怒(ド)鳴門(ナルド) 花札(トランプ)」さんでした。

バンカラとハイカラ

バンカラも、ハイカラもすでに死語となってしまいましたが、我々の青春時代まではれっきとした日本語、流行語として活躍していました。

明治の文明開化以後の、日本の世論を二分化するほどの対立概念として明治、大正、昭和を彩ってきました。

私が学んだ高校などは「バンカラの生き残り、歴史遺産」みたいな雰囲気がありましたねぇ。弊衣破帽がカッコよかったのです。

政治的に言えば、ハイカラが与党でバンカラが野党

文化的に言えば、ハイカラが欧米的でバンカラが伝統的

地域的に言えば、ハイカラが都会的でバンカラが田舎風

経済的に言えば、ハイカラが富裕層でバンカラが貧乏人

ハイカラとはHigh Collar 直訳すれば「高い文化的な色香」でしょうかねぇ。高いか低いかは個人の価値観の問題ですが、ご維新以後の政府は「追いつけ、追い越せ」を国是として、欧米文化の取りこみに躍起になっていましたからハイカラHigh Collarとは、欧米的ということです。

金栗四三と三島弥彦・・・オリンピック日本代表として選ばれた最初のアスリートでもありますが、ハイカラとバンカラの代表選手にも見えます。

新橋駅での応援風景にしろ、東京高師の連中は田舎者ばかりですから…ダサいですよね。

一方の三島弥彦を応援する天狗党、垢ぬけています。

明治から大正にかけて、大正ロマンと言われる時代は、ハイカラを訴求する主流派と、伝統を守ろうと抵抗するバンカラの、せめぎあいの時代でした。

ところで「バンカラ」……蕃カラ、蛮カラ、鷭カラとも書きます。

「俺たちゃぁ野蛮人じゃぁ」といった感じで真っ黒な鷭のように叫びます。

鷭(ばん)という鳥はご存知ない方が多いでしょうね。渡り鳥です。冬鳥です。鴨やユリカモメなどと一緒に過ごしている、真っ黒な水鳥です。

なんとなく、三島弥彦が白鳥かユリカモメで、四三は真っ黒な鷭のようにも見えます。

俺は村中で一番 モボと言われた男 うぬぼれ上せて得意顔 東京は銀座に来た

唐突ですが、これは高齢者だけに理解できる歌詞で、歌い手はエノケン、コメディアンの榎本健一の「洒落男」という曲です。

モボとはモダンボーイのことです。当然、もう一方にモガがいます。モダンガール。

懐かしく思われる方はUチューブ「洒落男」で検索してみてください。

榎本健一、藤山一郎ほか、多くの人の歌を聞くことができます。

明治後半から大正にかけて、日本は実に流動的、文化的混乱の坩堝(るつぼ)にはまっていたと思います。

江戸時代の、徳川3百年の伝統は「ご一新」の掛け声だけで消え去るものではありません。

昭和の時代まで丁髷(ちょんまげ)を切らなかった人が多数いて、そういう人の家、家の屋号は「ちょんまげさん」などという事例はいくらでもあります。

しかし、若者は伝統を嫌って新しいものに飛びつきます。エノケンの歌うモボ君もその一人で

そもそも その時のスタイル 青シャツに真っ赤なネクタイ

山高シャッポに ロイド眼鏡 だぶだぶな セーラのズボン

モボ・・・モダンボーイを気取りますが、所詮は「俺の親父は地主で村長」という田舎者です。

吾輩の見染めた彼女・・・肉体美の女に騙されて、その気になった所に現れた女の間男にボコボコにされて怖い所は東京の銀座…となります

まぁ、これは大正ロマンから昭和初期の日本の雰囲気で、四三と弥彦がシベリア鉄道でストックホルムに向かう頃の社会的雰囲気だったと思います。

都会に憧れた地方の資産家の子息が花の東京に出てくる・・・という時代でした。

そういう雰囲気の中で、氏育ちがまるで違う二人がシベリア鉄道を使い、ストックホルムへと向かいます。白夜の季節の長旅・・・体力の消耗が甚だしいでしょうね。

ハイカラさん、上流階級のハイカラ代表の三島弥彦

ダサい、田舎者、貧乏人のバンカラ系、金栗四三

二人のシベリア鉄道17日間の旅は、弥次喜多道中以上に滑稽な旅だったと思います。

これはもう、演出家がいかに面白く描くかの世界ですからお任せですが、面白い取り合わせです。

その上に、結核を病む監督とその妻が一緒ですから弥次喜多以上に事件続きの旅だったでしょうね。

こういう場面はテレビにお任せです。

金栗家のルーツ

先日、何の気なしにテレビをつけたら、金栗家のルーツ探しをしている番組を見ることになりました。四三の母親役・宮崎美子がレポータでした。

四三の実家は熊本県玉名郡和水町ですし、そのあたりには金栗村のような集落もあります。

ルーツを辿っていくと筑後川流域に金栗姓の集落があったりしますが、金栗氏の氏神は金凝神社(かなこり)、古代から製鉄技術に長け、鉄器を扱ってきた一族のようです。

日本に鉄器が入ってきたのは卑弥呼の時代、西暦240年ごろだと言いますが、日本で鉄鉱石を採集できる場所は殆どありません。砂鉄からの製鉄になります。

熊本、菊池郡に「金凝(かなこり)神社」という社があります。これが金栗家のルーツのようで、卑弥呼の頃から、製鉄にかかわる仕事をしていたのが…金栗家だったようです。