海人の夢 第17回  権力の毒

文聞亭笑一

【紺色文字は引用でF数字は藤本有紀著、数字だけは村上元三著「平清盛」です。】

今年の大河ドラマは、史実の少ない清盛の若い頃の姿を想像し、創造したドラマ仕立てになっています。脚本家の藤本有紀さんの創造力には敬服しつつも、原作本がない物語に先回りして、予告編的にものを書くのには苦労します。(笑)

NHKの番組をパクって、週刊メルマガを発行する私に対してイヤガラセをされているのか…などと勘ぐってみますが、そうではなく、NHK出版の関連書籍を買わせるためですねぇ。仕方なしに書籍、雑誌などを買わされますが、捨てる神あれば拾う神ありで、今年もスポンサーが原稿料をくれます。ありがたいことです。

最近のNHKは大変商売熱心です。まぁ、受信料値上げなどをするよりは結構なことです。

今週から、いよいよ清盛が平家の総帥として政治の舞台に立ちその個性を発揮しだします。

政権を奪うという夢を抱きつつも、それを表に出さず自重して、実力を蓄えてきた忠盛に代わって、その夢を実行に移す清盛に代替わりしました。

宮廷に隙あらば……虎視眈々(こしたんたん)と清盛は世の動きを眺めます。

藤原家の内紛、宮廷内の上皇と法皇の不和、清盛が牙(きば)を剥(む)く時期が、だんだんに迫ってきました。平和な平安貴族治の世が、終焉(しゅうえん)を迎えつつあります。

M,42、俺が棟梁(とうりょう)となった上は、亡き父上の固き志を継ぐ。すなわち、武士の世を目指す!
これは棟梁である俺の、そして平氏一門の志と心得よ。

清盛の施政方針演説(?)から抜粋してみました。

ここまであからさまに広言したとは思われませんが、それに近い決意を固めたことは事実でしょう。公家社会というのは、情報社会で、スパイ社会でもありますから、大勢の家の子郎党の前で、ここまで明らかに宣言すれば、宮廷から排除の対象になります。

平氏の結束がいかに高くても、これだけの問題発言は漏れ出します。

おそらく、家貞、盛国などの少数のブレーンの前で決意を述べたのでしょう。

武士の天下について、新平家物語の中で吉川英治は次のように語ります。

武が、愛するもの、守るもの、信奉するもの。―――それがその国の倫理として、一元的に愛護されあう場合のみ、武の使命とする平和は守られていく。

信長の「天下布武」も同じですが、軍事政権誕生に際して、清盛が目指したのは上記のような思いであったと思います。乱を起こさず、鎮めるために武力を強化するというもので、現代の防衛思想にも共通します。核抑止力というのがそれですし、北朝鮮の親子丼がテポドン、ピカドンと躍起になるのもこれだからです。更に、中国の異常なほどの軍拡……。彼らが信奉するものは、まさにこの思想でしょうね。

吉川英治が新平家物語を書いたのは戦後間もなくですが、軍部全盛期の日本帝国を体験しての感想だろうと思います。国内はイケイケ、ドンドンと武力増強の中でも「欲しがりません、勝つまでは」と国内的には平和でしたが、国際社会からは危険因子になり、結局は戦争、敗戦へと繋がりました。北朝鮮とて国内は平穏だと思いますよ。生活水準は劣悪でも、だからといって暴動が起きるとは限りません。「それが普通だ」と理解していれば、貧しいことが常識になるのです。

非武装中立などという御伽(おとぎ)噺(ばなし)は、女子供のたわごとですが、武力の保有の仕方、使い方について、現在の政権の認識レベルは小学生以下ですねぇ。尖閣、竹島、北方4島など離島防衛に関しては、全く腰が座っていません。鳥島、南大東島なども狙われているんですよ。

石原東京都知事が尖閣列島の買収を発表しましたが、これは快挙です。当然です。

中国政府は「右翼の一部の政治屋の暴挙だ」と批判しますが、泥棒にも三分の理という通りの屁理屈ですね。気にすることはありません。むしろ、私などが最も懸念することは外国人や外国企業に土地を売ることのほうで、所有権を主張して乗っ取られることの方です。

対馬の土地が韓国人に買いあさられていることなど・・・心配は尽きませんねぇ。

M43、「義賢、よう参った。これをそなたに授けたいと思ってな。源氏重代の太刀、友切じゃ」
為義が用意していたのは源氏の宝刀だ。本来ならば長男に与えるべき太刀である。

源氏の親子対立が深まって行きます。政界に進出して地位を高めようとする義朝に対し、父の為義は危険分子、源氏の立場を危うくする者と警戒します。為義には10人の息子がいますが、それぞれに個性が強く、兄弟仲が良いとは言えません。

この時期、義朝は既に五位・下野守に任官していますが、父の為義は六位の検非違使のままです。既に息子に抜かれてしまっています。更には、源氏の勢力圏である関東でも、義朝の長男である義平が、相模、上総など南関東で勢力を広げ、為義の息の掛かった配下を、上野、下野などの北関東に追っています。

息子が自分を越えていくことを喜ぶ親が普通だと思いますが、為義の場合は「生意気な奴」と嫌ってしまいました。この辺り、性格的に偏ったところのある人だったようです。

それを反映してか、息子たちも、郎党も乱暴者が多く、度重なる狼藉事件を起こしています。為義をNHKドラマでは好々爺に描いていますが、酒乱の気があったようですね。出世できなかった原因は、為義の行儀の悪さ、粗暴さにあったようです。

ともかくも、為義は鳥羽院に近づく長男義朝を廃し、藤原頼長の男色の相手として寵愛されている、次男の義賢に棟梁の座を譲ろうとします。そして義賢を関東に派遣し、義朝の子で、悪源太と異名をとるほどに人気の、孫の義平を抑えようと画策します。

後の話になりますが、義賢の次男が木曽義仲です。兄弟対決は後々も続きます。

M44、朝夕に 花待つ頃は思い寝の 夢のうちにぞ咲きはじめける (崇徳上皇)
「ふん。歌など出来ても世の役に立たぬ」
嘯く頼長の施政を「人の心がわからぬ政」だと嘲笑し、兄弟で険悪な雲行きになった。
たった一首の歌で、崇徳上皇と美福門院、頼長と忠通が睨み合いになり、公卿たちはそれぞれの思惑を胸にあれこれささやきあった。

清盛の公式行事の最初は、彼が最も苦手とする歌会でした。歌を詠むというのはこの時代の教養を示すバロメータのようなもので、これが出来ないと一流の人物と認められません。いままでは忠盛が難なくこなしていたのですが、体育会系の育ちをしてきた清盛が最も苦手とするところです。この歌会で、清盛は無粋な歌を詠んで嘲笑されますが、それ以上に天皇家、藤原家の対立が尖鋭化していきます。鳥羽院、関白組 対 崇徳院、頼長組と別れ、過去は陰口であった批判が、広言化されていきます。

権力争い、吉川英治は僧・文覚(遠藤盛遠)の口を借りて、次のように言います。

人間にとって何よりの毒は権力だよ。権力の魅力というものほど、摩訶不思議な毒はない。

この毒を舐めたものが乱を起こす。あるいは乱を仕向けられる。 (文覚)

世界のリーダを自認する米国に中華思想の中国が挑みます。地球規模の、壮大な権力争いですね。米国は先進国を味方につけ、中国は後進国を味方につけ、経済で、軍事で、毒を世界中にばら撒きます。この地球上に生きる動植物の生命の危機という点では、セシウムなどと比較にならぬほどの猛毒です。

国会では国民生活に直結する個別案件よりも、政権を奪い合って大臣の首を斬ったり、守ったりと泥仕合を繰り広げています。時代は変わっても、権力の毒が地球上の人間社会を危険に晒(さら)します。

崇徳上皇の歌、素直に読めば、垣根一杯に満開に咲くバラの花を心待ちしている私の心境と全く同じなのですが、花を「政権」と読めば、夢にまで出てくるほどの執念かと警戒したり、応援したりと、穏やかではありません。

M45,、「義朝、そなたは出来のよい倅じゃ。…数多いわが子たちの中でも図抜けてな。
だが義朝。誇らしきわが子よ。お前は強くなりすぎた。おのが父の誇りを踏みにじって、何の痛みも感じぬほどにな。さような者に源氏を背負わせるわけには行かぬ!」

為義の10人の息子のうち、良く知られているのは長男の義朝、次男の義賢、8男の為朝、10男の行家です。為朝は幼少の頃から相当な乱暴者だったらしく、暇さえあれば事件を起こすというタイプで、為義が出世できなかったり、解任される原因ばかり作っていたようですね。いわゆるトラブルメーカです。

行家は新宮十郎などと呼ばれ、源平合戦の火付け役。ドラマの後半で登場するでしょう。

ともかく、為義の息子たちは官僚としては「できの悪い」乱暴者ぞろいでした。親の為義がそうなのですから仕方ありませんね。

現在の政権…まるで、この当時の源氏のようです。出来の悪いのが多い。