海人の夢 第28回 前半の振り返り

文聞亭笑一

NHK大河ドラマの進展が予想外に遅く、前号が、一週間分先行してしまいました。

テレビと、この文章を見比べている方に申し訳ないので、物語の筋書きを、一週間分休みます。今週の展開は、先週号の内容ではないかと思います

そこで、前半のまとめに、アシスト社の季刊誌「アシスト・夏号」に寄稿した文章に、一部加筆したものを掲載します。既にお読みの方には、申し訳ありません。

2012 アシスト季刊誌掲載 

海人の夢(前編)

千年に一度といわれる地震と大津波に襲われ、わが国は国家を挙げて復旧に取り組まなくてはなりません。そんな折も折、今年のNHK大河ドラマは約千年前の物語を放映しています。平家物語といえば、多くの方々は吉川英治の名作、「新平家物語」を思い出されることでしょう。しかし、今年のNHKは一味違う脚本で、戸惑っておられる方が多いようですね。しかし……、千年前も現代も…人間のすることは大して変わりがありませんね。国会を舞台に、権力闘争に明け暮れる姿は、昔のままです。

日本人はどこから来たか

この国に、いつ頃から人が住んだかは諸説ありますが、氷河期の終わりに、凍りついた海を渡って、最初の狩猟民族が北から渡来したようです。南へ、南へと獣を追い、木の実を採集しながら、山岳地帯を中心に居住地を構えました。

その後やってきたのが、南の海からの海人族です。彼らは海を中心に漁労で生活をしますが、彼らが携えてきたのが縄文土器で、先住民と混血しながら北上します。

その後、大陸の文化を携えた弥生人が渡来し、米作を普及させ、更には北方騎馬民族や、戦争によって大陸を追い出された人々などが渡ってきます。混血を繰り返し、繰り返し、現代の日本人が生まれました。

平清盛は、そういった渡来人の血を色濃く残した人物ではなかったか? 

海に憧れ、通商立国を目指した、この国で最初の為政者だったように思います。

平安時代とは

学校で習った歴史では、平安時代は荘園制による貴族の政治と教わりました。が、それは政治体制と、税制の問題であって、国民生活を表していません。

平安期は、土木技術を含めた農業技術の発展期で、高度成長期であったと思われます。

手付かずの大地がいたるところに広がり、開墾さえすれば、いくらでも田畑が広げられたのです。その技術を持ち込んだのが秦氏で、彼らの神である稲荷社は、全国至る所にありますね。技術者として優遇されたのです。

平安前期は開拓開墾のフロンティア、後期は生産性の向上による経済成長でした。


バブルの崩壊

平安末期、天変地異もありましたが、結論から言えば、農業の生産性向上に限界が見え出しました。「この世をば 我が世とぞ思う満月の 欠けたることも なしと思わば」と、全盛を誇ったのは藤原道長ですが、その辺りを頂点に、経済は停滞を始めます。財政が廻らなくなりますから、増税と政治不信の繰り返し、悪魔のサイクルが廻り始めます。こういうところは真似をしたくないのですが、ヤッパリやってしまうのが人間の性でしょうか。

武士の台頭

中央政府が信用できませんから、各地に自分の縄張りを守るための自衛隊が、自然発生します。盗賊や敵対勢力から食料、財産を守るための組織ですが、徐々に力をつけて地方の支配者となって行きます。伊勢、瀬戸内を根城にする平家、関東に根を張る源氏。武士団は合従連衡を繰り返しながら、徐々に源平の二大勢力に組織化されていきました。

ただ、この二つの勢力は拠って立つ方向を異にします。農業立国を目指したのが源氏、通商立国を目指したのが平氏ですから、いずれは対立せざるをえません。TPPを巡る現代の政争のようなものです。

保元、平治の乱

貧すれば鈍す…といいますが、藤原家も天皇家も、減少していく税を奪い合って、至る所で争いを起こします。権力闘争というものは、突き詰めれば経済戦争です。利権の奪い合いです。天皇家が割れ、藤原家が割れ、それに源氏も平家も巻き込まれていきます。

巻き込まれつつも、力の有る者が益々力をつけ、政治権力を奪っていきます。泰平に慣れた藤原貴族たちは、世の趨勢を知りませんし、危機管理能力もありませんから、なすすべもありません。

保元平治の乱を勝ち残った清盛が、権力を握っていくのは、当然の結果でした。

それ以降の日本の政治は、鎌倉幕府、室町幕府から戦国時代を経て江戸時代、そして明治から昭和にかけての軍部主導内閣と……1945年までの800年間、すべて軍事政権といえます。武士の世…とは、言い換えれば軍事政権ということです。近くにある軍事政権の国家を笑ってばかりはおられません。私たちがいつか通った道を、遅れて歩いているのですが…、テポドン、ピカドン、親子丼では近所迷惑です。

通商立国を目指した政治家は、清盛の後は信長でしょうね、そして、時代が進んで龍馬が現れます。日本人がなんとなく好きな歴史上の人物、そのいずれもが海外を志向するという点で共通しています。熊野社、住吉社など航海の神を全国津々浦々に祀ることを含め、我々の身体の中を流れる、太古からの海人族の血のなせることか、と思ったりします。