海人の夢 第45回 ガラガラポン

文聞亭笑一

二週間の通信トラブルで、このシリーズもガタガタになりました。

孫読者を抱える方々の信用を著しく失墜させたこと、深くお詫びいたします。

実は、何のことはないトラブルで、モデムとパソコンのコネクタが外れておりました。

国会も、本日の泥鰌総理の11月16日解散発言で、ガラガラと局面が大転換しました。

何が起きるのかわからないのが、この世に不思議さ、面白さで、観客席からはなんとでも、面白おかしく評論できますが、グランドで戦っている「国民」としては、ガラガラの後にポンとなるかどうか…不安が一杯です。まぁ、「国民の皆様」ではなく、「主権者」の国民として、来るべき選挙では責任ある投票をするしかありませんね。

「国民の皆様」と、主権者である国民を観客席に追い出したのが鳩山、菅で、それに乗って皆様、皆様と国民をないがしろにしたのが谷垣、石原のボンボン野党でした。美辞麗句、甘言に乗ってしまうアホな国民が馬鹿だったんですねぇ。反省、また反省ですよ。

さて、ドラマ「清盛」もいよいよ大詰めです。後二、三回でしょうか。どういうクライマックスを迎えるかは、原作者と、テレビ監督の想いでしょうから、四の五の言うのはやめておきます。先日発刊されたアシスト社の季刊誌に載せた文章を転載して、今週号に変えます。

海人の夢(後編)

清盛は、平安末期に「改革者」として登場しました。成長が鈍化して沈滞した経済、少ない富と権力を奪い合う貴族たち、そういう醜い争いを、武力と財力と言う力で破壊し、武士が主役となる、新しい政治体制の幕を開けました。

幕を開けたのが清盛、そして、それを完成させたのが頼朝です。どちらも、新しい時代を切り開いた改革者でした。華々しい成果、改革には光と影があります。光が強ければ、それだけ影も濃くなります。

<幻想の破壊>清盛の改革を一言で言えば「幻想の破壊」でしょうか。平安期の300年間、人々は天皇を頂点とする貴族政治を、天から与えられた仕組みとして信じていました。天下は天皇家のもの、そして、それを取り仕切る執政・藤原家のもの、人々はそう信じていたのです。

天皇は聖人君子であり、藤原家は一般庶民とは別世界に住む賢人である、聖賢による孔孟の理想政治。

この信仰、幻想が崩れていく過程は前編で触れましたが、天皇家や、藤原家に対する政治不信が頂点に達し、新しいリーダを求める機運が盛り上がってきていたのです。なんとなく…現代に似ていますね。

<武士の政治参加>清盛は、旧体制を維持したまま、藤原氏が独占していた政府の要職に、次々と平氏一門を送り込みます。朝議の過半数を制して、国政を意のままに動かし、藤原氏の財源である土地の権益も奪いました。父の忠盛の時代は3カ国程度だった国主の数も、平治の乱の後には17カ国、そして、後白河法皇を幽閉したクーデターの後では、34カ国にも達しています。藤原氏に取って代わって、平氏が政権についたのです。

政治体制は変えませんでしたが、清盛は経済構造の大転換を図りました。それまでの農耕社会の経済を、一気に、通商による経済に転換しようとします。そのための大事業が瀬戸内航路の開発です。音戸の瀬戸の開削、大和田の築港などがそれです。物流を活発にし、貨幣経済を導入し、寺や公家の認可制を廃して、経済の自由化を推進します。

これだけの大改革をやりますから、反対勢力も黙ってはいません。農業を基盤にする半農の武士たちが、生活基盤を奪われるのではないかと不安になります。寺社は、商売に関する許認可権、つまり既得権益を奪われて、立ち行かなくなります。

<源氏の台頭>こういう反対勢力、反体制派が集うのには、旗頭が必要です。その先頭に押し立てられたのが、伊豆に幽閉されていた頼朝でした。本人の意思とは関係なく、巨大な時代の流れが、頼朝を平穏な流人暮らしから戦場へと追い立てたのです。

旗頭が出来ただけでは、人は動きません。平氏の制裁を恐れて、単独行動を起こしません。その彼らをつなぐには、情報網が不可欠です。その役割を担ったのが、寺門でした。修行僧、勧進僧という立場を利用して、全国津々浦々の不満分子を煽動して歩きます。更に、一斉決起に向けての連絡役を果たします。関東の源氏は勿論のこと、木曽源氏、奥州藤原、熊野海賊など、平氏によって既得権を失ったものたちを糾合します。この役割、現代のマスコミに似ています。「情報を伝えるだけ」と言いながらも、その情報の中に政治的意図が含まれていないとは限りません。

<征夷大将軍>武士の政治参加を実現したのは清盛ですが、それを政治体制の変革にまでつなげて、完成させたのが頼朝です。

清盛、重盛、宗盛はあくまでも旧体制の大臣として天皇の宣旨で政治を行いますが、頼朝は征夷大将軍という臨時的職制を永久化する手法で、幕府を開きました。征夷大将軍とは、坂上田村麻呂などが、東北の蝦夷、敵対勢力を討伐に向かうためにおかれた臨時職制です。現代語で言えば「占領軍総司令官」という言葉でしょうね。軍によって制圧した地域の、軍制、民政の全権を保有する役割です。幕府とは、まさしく「軍指令所」のことです。

こういう職制を利用するとは、頼朝も大したものだと思いますが、大江広元など公家出身の教養人・学者の入智恵だったでしょうね。ともかくも、平氏を倒して日本中を占領してしまい、その政治の全権を掌握できる職制と言うことになります。この智恵が、後の足利幕府、徳川幕府に引き継がれ、800年間の軍政の基盤になりました。

<海人の夢>清盛の夢は、平氏の一族が壇ノ浦に沈むと同時に消えました。その後は「一所懸命」な、農村文化主体の政治に逆戻りでした。

歴史は繰り返します。清盛のあとを継いだ信長の海外雄飛の夢も、家康に潰され、龍馬の夢も、軍部の無謀な海外侵略で消え、そして現代のTPP論争があります。さて、この国はどこに進むのでしょうか。