乱に咲く花 18 奏聞に及ばず

文聞亭笑一

NHK大河の追いかけ作者としては、ただいま全くの迷走状態に陥っております。脚本家のストーリーが全く読めなくなりました。オリジナル作品ですから…仕方ないですね。来週の予告編ではタイトルが「龍馬登場」となっています。

萩に呼び戻された高杉晋作、萩を訪れた坂本龍馬、この辺りを材料に、松陰の熾火が灰の中で生き残る姿を描くのでしょうか。今まで取り上げられてこなかった場面ですからドラマ展開が楽しみでもあります。

舞台は安政5年です。この年は事件の多い年で、井伊直弼ならずとも頭に血がのぼるほど次から次へと事件が起きます。行事や問題対処に追われます。

これを年表風に書いてみると

2月  堀田正睦上洛 日米修好通商条約調印の勅許を求める

3月  孝明天皇が条約調印の勅許を拒否

4月  井伊直弼 大老職に就任

6月  日米修好通商条約調印

    徳川慶福(家茂)将軍後継者に決定

7月  13代将軍徳川家定死去

 薩摩藩主・島津斉彬死去

 オランダ、ロシア、イギリスと修好通商条約締結

8月  水戸藩に「戊午の密勅」が下される

9月  日仏修好通商条約調印

 安政の大獄始まる

10月 徳川家茂、14代将軍に就任

外交問題、将軍継嗣問題などが一気に解決(?)してしまいます。井伊大老の独断といおうか、幕府の権威を見せつけるための示威行動といおうか、混迷を極めていた国内政治のモヤモヤを、幕府か朝廷かという、白か黒かの対立軸に特化してしまいました。

これはこれで、正解ではなかったでしょうか。快刀乱麻と言う言葉がありますが,千路に縺れた政治の糸を一刀両断、対立軸を明確にしたという点で私は評価します。

それが、良いか悪いかは別ですよ。ただ、小田原評定よりひどい状況から抜け出して、日本の進むべき道の選択肢を明確に打ち出したのは良いことだと思います。こうすることによって答えが導き出されるのではないでしょうか。

勿論、治外法権の承認をはじめ、関税率の設定権、為替レートの問題など、不平等項目を認めてしまったのは間違いで、そのために明治政府は枯淡の苦労を舐めることになります。このことが明治の歴史家、法律家にとっては国辱であり、井伊直弼を悪党として罪をなすりつけますが、条約の中身に関して理解できている者など、日本広しといえど殆んどいなかったのです。

群盲象をなでる…これが、この当時の日本全体の国際知識レベルでした。

井伊大老は外国との条約締結を「宿継奉書」…今でいう速達…で朝廷に届け出た。正式文書、承認伺いという形式ではない。

井伊がこれだけ朝廷に対して強気だったのは、当時の法律による。

幕府と朝廷の関係は、1615年に結ばれた公武法制応勅十八か条(公家諸法度の一部)が生きていて、その第2条に「政道奏聞に及ばず」とある。

井伊直弼のやったことは、国内法では立派に合法なのです。1615と言えば大阪の陣が終わり、徳川体制が確立した年です。家康は最後の仕上げとして朝廷が政治に口を出すことを禁じました。象徴天皇であり、神主の親玉に祀り上げてしまったのです。

それから250年…この法律は生きています。井伊直弼にすれば、開国の勅許を受けにノコノコと京にまで出かけた堀田老中は馬鹿で、法律知らずということになります。ですから堀田は首にしてしまいますし、速達一通で「開国したからね、よろしく」としか朝廷には知らせていません。説明の必要などないのです。「政道奏聞に及ばず」ですからね。

しかし、当時の知識層は水戸学派の尊皇攘夷思想に染まっていました。

現代に置き換えれば、資本主義思想と社会主義、共産主義思想のようなものです。一方の正義が一方の凶悪犯罪に移ります。安政の大獄とはそういうことで、思想弾圧です。吉田松陰、橋本左内など、反幕的革新思想は「悪党」となります。水戸藩の徳川斉昭、藤田東湖の提唱する勤皇思想も「悪党」です。ついでに、その思想に乗る京の公家たちも悪党になります。

現代は、思想表現の自由で主義主張を自由に発表できますが、江戸時代はそんな自由は認められていません。百姓一揆など、直訴しただけで磔獄門ですからねぇ。その意味では吉田松陰のやったことは「死を覚悟して」としか考えざるを得ません。

さて、今回のNHKは「龍馬登場」をタイトルにしています。

龍馬はこの時期、築地の海軍伝習所に通い、勝海舟から薫陶を受けています。国際感覚を叩きこまれていた時期と言っても良いでしょうね。その龍馬が長州で誰に逢ったのか?何を話したのか?テレビの筋書きを拝見させてもらうのが楽しみですが…。

執政の周布政之助か、長井雅樂ではなかったか…と推察します。長井雅樂は、その後「航海遠望策」を提唱し、京の朝廷に働きかけ、公武合体による国論統一の動きを始めます。その策を実現する中心になって働くのが桂小五郎で、配役からすれば東山紀之が小五郎役ですから、ぼちぼち活躍する頃ではないかと思って見ています。今までの出演場面ではチョイ役程度ですが、人気俳優をチョイ役だけで終わらせるはずがありませんからねぇ。

龍馬が吹き込んだ国際感覚を長井雅樂が政策提案し、それを桂小五郎が京を舞台に広げていく。その脇役で土佐や薩摩の浪士団が動き、それを取り締まる新選組が活躍して

東山三十六峰、草木も眠る丑三つ時、突如巻き起こる剣劇の響き・・・チャカチャンチャン

♪ 鴨の河原に 千鳥が騒ぐ あわや血の雨 涙雨

  武士という名に命を懸けて 新選組は今日も行く

という昔懐かしい映画の世界が始まりそうです。

筋書きが分からず、迷走中なので、今週も2Pで終わらせていただきます。