番外編 本能寺の変 光秀の動機あれこれ

文聞亭笑一

「本能寺の変」は日本史上の最大のミステリーとして過去から何度も取り上げられています。それと言うのも「誰か」が徹底的に証拠隠滅を図り、さらには史書を捏造してまで事実を隠したからにほかなりません。勝者である秀吉、朝廷、家康が結託して、信長と光秀を抹殺しようとしました。この二人が歴史上で正しい判断を受けたら困る面々なのです。 資料がない、少ないということは推理小説の格好のテーマです。過去に多くの歴史作家、小説家が「光秀の謀反の動機」に関して推理を展開します。およそ、10通りほどの仮説があります。

◆1、怨恨説

・・・信長から受けた各種の仕打ちを恨み、旧領を取り上げられて逆上した。

これは江戸時代中期の講談本が根拠です。諏訪での打擲事件、丹波攻めで明智の母が磔になった事件など、ありもしなかった事件を捏造して、光秀が信長を恨むストーリーを演出しています。

司馬遼も、山岡宗八もこの資料を「正しい」として小説にしました。

映画、ドラマは殆どがこの説で作られます・・・常識説でもあります。

◆2、神経疲労説 ・・・改革者、破天荒な信長と、常識人・光秀の間の価値観の差を埋めるべく努力を重ねるも、調整に疲れ果てて・・・謀反に及んだと云う説。

近年発表される本能寺物の小説では、この説が主流です。現代ビジネスマンの組織内での葛藤を重ね合わせると、「むべなるかな」と納得させられる説です。

◆3、朝廷黒幕説・・・最近、増えてきた推論です。信長が西欧型の王室・つまり国王になろうとしていたと仮定し、それを阻止するために、勤皇家の光秀をけしかけたというものです。

主犯は正親町天皇、関白・近衛前久や吉田兼美が暗躍します。

◆4、足利義昭黒幕説・・・信長ではこの国は破滅するとして、旧体制復活を目指すというもの。

◆5、秀吉黒幕説・・・信長のもとでは疲れるばかり、その先は使い捨てならば信長を消そう・・・という共同謀議、 その約束を秀吉が裏切ったという説。

◆6、家康黒幕説・・・信長への不信感、とりわけ安土城招待から堺見物は、信長に暗殺される危機だったと考える説。この説では、後の家康の参謀「天海僧正」は光秀である。

◆7、長曾我部元親黒幕説・・・目前に控えた四国征伐を阻止するため、光秀を使嗾して信長を暗殺させたという説。信長が斉藤利三に切腹命令を出したのが決断の根拠とする説。

◆8、毛利黒幕説・・・信長の中国進攻を阻止するために、安国寺恵瓊が暗躍したという説。秀吉黒幕説とも連動し、采配を振るったのは黒田官兵衛とする説。

◆9、妙心寺派黒幕説・・・光秀の周辺には美濃にゆかりのある妙心寺の高僧が活躍しています。

とりわけ、甲斐・恵林寺で信長に焼き殺された快川禅師との交際が密でした。

この説は朝廷黒幕説とも連動して、かなり魅力的です。

◆10、イエズス会黒幕説・・・イスパニアの世界制覇の戦略上、アジア最強の鉄砲軍団を持つ信長が脅威、邪魔になってきたという説。

ただ、この説はキリスト教と無関係な光秀が動く根拠にはならない。次女・ガラシャがキリスト教に入信したのは光秀の死後のことです。

今回の大河では、どのように描かれるのか。興味深いところです。