紫が光る 第14回 中関白家の栄華
作 文聞亭笑一
豪腕の兼家が力ずくで手にした九条流藤原氏の政権ですが、政権奪取に力を使い切ったのか、兼家の衰えが目立ってきました。
老衰・・・と言うには若すぎますので、糖尿とか・・・内蔵系の疾患が想定されます。
後継者候補は息子達4人ですが、順番から言えば長男の道隆でしょうね。
次いで、花山天皇を騙して引退させた功労者・道兼となります。
ただ、この時点で既に娘の定子を後宮に送り込んでいる道隆が優位です。
中関白家、道隆
道隆が政権を握った時代の主流派・・・摂政関白・道隆の血統を中関白家と呼んでいます。
なぜ「中」なのか? 諸説あるようですが創業の初代と、絶頂期を築いた3代目(道長)とのつなぎ、中継の役割・・・「中継ぎの中」だと思います。
後に・・・この一党は自爆、自滅のような形で政権から外れていきます。
古来、兄弟が三人いると・・・その性癖について言い慣わされてきた言葉があります。
「総領の甚六、二番子の鬼、三番子の半狂い」
要するに、長男はのんびり、ぼんやりしていて実行力に乏しいが、包容力がある。
次男は長男を追い越そうとガツガツしていて、やることが荒っぽいが、行動力が高い。
三男坊は常識はずれなことばかりして、何を考えているかわからないが、創造性が高い。
今回の脚本家も道隆、道兼、道長の3兄弟を上記の慣用句と似た位置づけ、性向で描いているようにも見えます。
ただ、残っている資料に依れば、道隆は父親の兼家以上に強引な手法で我田引水をやったと言われています。
入内していた娘の定子を、皇室内の慣例を破って中宮(皇后)にしてしまったことと、息子二人の官位を瞬く間に引揚げ、十代の長男・伊周を内大臣にまで昇進させてしまいました。
「後継者は伊周」とミエミエの人事です。
当然ながら敵を作ります。
その敵の最たる者が、弟の道兼と道長、それに妹の詮子です。天皇の母(詮子)を敵に回してしまったことが、後々の中関白家に暗雲をもたらしますが・・・これは先の話。栄華は5年間続きます。
道隆のエピソードで、最も知られているのは「大酒豪」「大の酒好き」という評価です。
烏帽子を外すほどに酔っ払って、公衆に醜態をさらしたと言う話、賀茂の神社へ行く牛車の中で飲み過ぎた話などなど、枚挙に暇もないほどありますが、酔っ払って寝込んでいても「仕事ですよ」の声がかかると、何事もなかったようにシャンとして、常に変わらず執務したと言います。
相当肝臓が強かったんですね。
道隆には飲み友達が二人いて・・・、二人とも飲み過ぎが原因で先に死にましたが、道隆は死ぬ間際に「浄土に行ったら彼らに会えるだろうか・・・」などと、あの世でも仲間と酒を飲むことを考えていたと言います。
死因はどうやら・・・呑みすぎによる糖尿病だったようですね。
文聞亭は現役時代に似たような3兄弟と出会ったことがあります。
「総領・・・、二番子・・・、三番子・・・」性格、性向などが似ていると言えば・・・似ているかな?
その・・・長男とお酒を思い出して、思わずニタリ・・・などと懐かしく思い出します。
ともかく、道隆と言えば酒のエピソードが多いですね。
四后並立
道隆がやった強引な政治の、代表例の一つが娘の定子を中宮にしてしまったことです。
それまでの皇室のしきたりでは「皇后は3人まで」となっていました。
現在の天皇の后=皇后、先代の天皇の皇后=皇太后、先々代の天皇の皇后=太皇太后の三つの枠で、「空き」が出来るまで名乗ることが出来ません。
空きが出来るのは死去するか、それとも出家するかです。
普通は天皇の世代が皇后で、父母の世代が皇太后、祖父母の世代が太皇太后となりますから相互にそれなりの年齢差があり、当時は「人生50年」の時代ですから枠は空いています。
しかしこの時期、公家達の政略で天皇の交代が早く、天皇OB,皇后OGが若いのです。
みんな生きています。当分・・・枠が空く見込みはありません。
道隆は皇后の別に呼び方「中宮」を使って、定子を中宮(=皇后)にしてしまいます。
定子が男子を産んだ場合に、皇后(正妻)の身分がないと皇太子、天皇への皇位継承順位1番が保証されないからです。
皇后と中宮は違う・・・と言う屁理屈ですね。違うのは呼び方だけ。
参議以上の公卿の全員が反対するのを押し切って実行してしまいますから、かなりな横車ですね。
道長などは「中宮担当役員」に任命されますが、徹底的にサボタージュして就任式以来ずっと欠席。欠勤を続けていたようです。
中宮・定子
一条天皇が即位したのは7歳の時です。数え年7歳ですから小学一年生、そこへ嫁さんとして従姉の15歳・・・中学生のお姉さんがやってきます。ママゴト・・・にもなりませんね。
住み込みの家庭教師のお姉さん・・・の感じでしょうか。
テレビでは「かくれんぼ」などをして遊んでいましたが、まぁ・・・あんなもんでしょうね。
そして、その定子の家庭教師が「枕草子」を書いた清少納言なのですが、出仕するのはもう少し後でしょう。
気立ての良い娘で、美人で、人当たりも良い理想的な女性でしたが、親世代の政争の道具にされて波瀾万丈な人生を送ることになります。
どうなるのか? 知らない方がドラマを楽しめますのでネタバレは止めておきます。
ともかく・・・成人してからの一条天皇は定子に首ったけで、一旦出家して引退した彼女を呼び戻して子を産ませています。
ただ、息子の一条が定子にのめり込むほどに、母の詮子は面白くありません。
時代を超えてまで、何処にでもある嫁と姑の確執で「息子を盗られた」という思いが湧いてきます。
それが、道隆の中関白家に依る政治、人事の専横、兄の息子・伊周などの異常な出世と相まって疑念や不平不満を醸し出していきます。
定子自身とは全く関係ないところで、冷たい目線に晒されることになります。
栄華の家の代償とは言え・・・ちょっと気の毒です。
前回の放送は花山天皇退位、一条天皇即位から四年後・・・と言う設定でした。
・・・となると、ちょっと変なのが、一条天皇が幼すぎることです。
数え年7+4=11歳 小学4年生で隠れん坊はないですよね。
まぁ、子役から成人への切り替えの難しいところでしょう。
次回は兼家の死から、中関白家の絶頂期を描くのでしょうか。
道長・倫子夫婦にも次々と子が生まれます。
道長と第二夫人の明子にも続々と子が生まれます。
それにひきかえ、相変わらず貧乏暮らしの紫式部・まひろ・・・どう描きますかね?