紫が光る 第16回 紫式部の歌

作 文聞亭笑一

今年の大河物語「光る君へ」は平安期に書かれた日記、物語、随筆などを組み合わせて・・・、チコちゃん風にいう「もしかして、こうだったんだ劇場」を演出しているようですね。

物語の底流になる基本ストーリーは賢人右府と言われた藤原実資の「小右記」、それに「紫式部日記」、「源氏物語」、清少納言の「枕草子」、赤染右衛門の「栄花物語」、道綱の母の「蜻蛉日記」などの記述を加えて脚本化しているのでしょうが、時の流れがわかりにくいのが難点です。

整理する意味で、これまでの所を年表風にしてみました。

道長とまひろの熱烈ラブシーンは22歳と14歳の頃・・・となります。

紫式部の歌

子供の頃からラブレターの代筆をしていた・・・という脚本の通り、かなり早い時期から和歌の才能を発揮していたようです。

紫式部日記には旧い順に?・・・若い頃の作品から・・・載せてあるとすれば、先頭にある百人一首に採用された歌は10代前半の歌ということになります。

めぐりあいて

みしやそれとも

わかぬまに

雲かくれにし

夜半の月かな

久しぶりでやっとお目にかかったのに、あなたかどうかみわけがつかないうちにお帰りになりました。

夜半の月が雲に隠れてしまったようで、心残りでした。

子供の歌ではありませんね。

代表歌として日記の先頭に置いたのでしょう。

地方に赴任する友人との別れの歌が多いのが紫式部日記前半の特徴です。

紫式部が付合っていた友人は受領階級(地方官僚・・・◯◯守)が多く、家族帯同で任地へと赴任していきます。

紫式部自身も、後に越前に赴任する父と任地に向かいます。

清少納言も父の任地へ瀬戸内海を舟で渡ったと、枕草子に書いてあります。

鳴きよわる 

間垣の虫もとめがたき

秋の別れやかなしかるらむ

間垣に力なく鳴く虫も、遠くへ行くあなたを引き留められません。<>

虫も私と同じで、この別れが哀しいのでしょう

西へ行く 

月の便りにたまずさの 

書き絶えめやは雲の通い路

月は雲の中を西に行きます。

その西へゆく便にことづける貴女への手紙は絶やしません。

嵐吹く 

遠山里のもみじ葉は 

露もとまらぬことのかたさよ

嵐の吹く遠い山里の紅葉の葉は、すこしの間でも木に留まるのは難しいでしょうね。

あなたを都から遠くに連れて行こうとする力の強さには、抗しがたいことですね。

肥前松浦に赴任した人の娘からでしょうか、その人からの手紙に対する返歌ですが、この歌は後に、源氏物語のも登場するようです。

合い見むと

思う心は松浦なる

鏡の神や空に見るらむ

貴女に会いたいと思う心は、貴女の暮らす肥前・松浦の鏡の神様が見ておいでですね。

ともかく・・・源氏物語の作品の中には「登場人物が詠んだ」とする紫式部作の歌が795首掲載されているようです。

会話文の代わりに、互いに歌を交歓し合うという平安時代の風習があったにせよ、膨大な数の詩を読んでいます。

それがいずれも秀作と言うところが凄いです。

石山詣

先週の番組では、石山詣でをしたときに藤原道綱母子に会った・・・という物語展開でした。

蜻蛉日記の作者でもあり、文学者としての先輩との出会い・・・そして道綱が夜這いをかけてきました。

この場面は源氏物語の「末摘花」に似ています。

・・・光源氏は評判の美女と聞いて末摘花の所に夜這いを繰り返した。

雪の夜、雪明かりで顔が見えてしまった。美人というには・・・だった! と言う話

紫式部日記には、式部姉妹の所に夜這いをかけてきた男がいたという歌が載っています。

おぼつかな

それかあらぬか

あけぐれの

そらおぼれする

朝顔の花

どうも・・・解しかねます。

昨夜訪ねてきたのはあの方か、別の方か

お帰りの折に、明けぐれの空の下で とぼけたお顔をされていましたね。

おめあては姉でしたか、それとも私?

道綱は兼家の次男です。

妾腹の子ではありますが、それなりに出世していますね。

今回のドラマではオッチョコチョイの道化役に描かれますが、道長政権ではそれなりに出世しています。