紫が光る 第18回 七日関白
作 文聞亭笑一
前回、中関白・道隆の死因を疫病ではないかと書きましたが、テレビの方は「糖尿病」としていました。
日光が眩しく感じられる、やたらと水を欲しがる、視力が低下する・・・と糖尿末期の症状を演出していました。
大酒飲みの道隆=糖尿病に違いない・・・そんな感じもしますが、死因についてはなんの資料も残ってはいません。
糖尿で殺そうが、疫病で殺そうが、作者の勝手です(笑)
紙の値段
平安貴族はラブレターを書きます。
そして日記を書き、随筆や物語を書きます。
紙の消費量は半端ではなかったと思われます。
それもすべて和紙ですね。一枚一枚手漉きです。
当時の税制は「租庸調」でした。
紙は調として上納されてきます。
租・・・本税・米による物納
庸・・・勤労奉仕、軍役、工事使役など労働力の提供
調・・・地方の名産を納める 代表的だったのが和紙でした。美濃紙、奥州紙・・・
ちなみに私の住む南武蔵の調は茜・・・乾燥したアザミの根で赤色の染料でした。
また故郷信濃・安曇野の調は「鮭の加工品」でした。
あんな山奥まで鮭が遡上していましたね。
さて、紙ですがかなり高価だったと想定されます。
手漉きの和紙ですからね、手間暇かかります。
平安期の記録には「3000帳で6石」という記録があります。
6石=60斗=600升
一升は1,5kg
現代の標準的米価は10kg=3000円
これをベースに計算すると一帳は約100円になります。
紙一枚100円
我々は500枚300円ほどの安い紙を使いますから、失敗したら反故にしてバンバン消費しますが、一枚100円では・・・ゴミ箱直行とは行きませんね。
ちなみに当時の給料ですがまひろの従者・乙彦、道長の従者・百舌彦クラスの月給が米6斗だといいます。
約2,7万円/月
そういう比較からすると、当時の紙は高価です。上質紙は千円くらいの値打ちかも知れません。
荘子の巻物
病から回復したまひろが自宅で読んでいたのは「荘子」でした。どうやら荘子第二斉物論篇の胡蝶の詩だったと・・・解説記事がありました。
映像で「荘子」は確認できましたが内容はわかりません。
道長との恋を「夢のまた夢」と思い出しているシーンでしたね。
現代語訳を票にしてみました。
図面
高校生に戻っての漢文の時間ですねぇ。
荘子の「万物斉周」という思想で、無常観に繋がるものだといいます。
いわく、善悪、是非、美醜、生死と言った対立概念を捨てよう・・・無の境地を提唱するもののようです。
まひろが道長との恋の日々を忘れようと取り出したのでしょうか。
それとも、昔を懐かしんで取り出したのでしょうか。
今度のドラマは解説がないとさっぱりわからない場面が多すぎます。
七日関白
道隆の妄執ともいうべき「息子の伊周を時期関白に」という運動は、達成できませんでした。
一条天皇が自分の意思で「道隆の病気の間だけ内覧にする」と、妥協案を出したという筋書きでしたが、実は母親の詮子が伊周の後継には強硬に反対していました。
反対理由は二つ
① 嫁の定子に首ったけで母の言うことを聞かなくなった息子を取り戻す
② 軽佻浮薄な伊周では宮廷内が乱れる 道隆以上に中関白家の独裁、独善が強まる
①はなんとなく嫁姑の争いのような雰囲気でもあります。
②は世代間の文化の差 ①②どちらも現代の庶民感覚にも通じる動機ですね。
「伊周では若すぎる」という表向きの理由を挙げて、自分の兄弟へと政権を動かします。
伊周にとって最大の弱みは公家仲間に人気がないことでした。
道兼へと関白の宣下がおります。
ところが道兼は宣下の日に宮殿で倒れます。疫病の発症でした。
この疫病・・・以前に麻疹ではないか?と書きましたが天然痘のようですね。
993年頃太宰府で流行し、全国に拡がったと、記録に残っていました。
関白道兼は宣下の7日後に死去します。
その他にも左大臣・源重信、大納言の藤原斉時、藤原道頼、藤原朝光、中納言の源保光、源伊涉が疫病・天然痘に罹患し亡くなっています。
この時期に、いわゆる朝議のメンバー8人が亡くなります。半数を超えます。
ついでに、一条天皇も罹患したといわれています。政権崩壊・・・でしたね。
疱瘡、天然痘だとしたら治癒しても痘痕が残ったりしますが、まひろにはその痕跡がありません。
軽症だったのか、何某かの免疫力が働いたのか、・・・ま、物語への影響はありませんね。
道長と伊周
天然痘騒ぎの真っ最中ですが、内閣の首班がいなくては国家が建ち行きません。
誰の目から見ても候補者は二人、大納言・道長と内大臣・伊周の二者択一です。
伊周は正統の長男。
内覧という総理大臣臨時代理のような立場を経験しましたが・・政務に未熟
道長は道隆、道兼と続いてきた兼家家系の重鎮・・・経験豊富な政治家です。
どちらをとるか悩ましいところですが、肝心の天皇も疱瘡に罹患しています。
朝議メンバーの半数も疱瘡で死んでしまいました。
こうなると廊下鳶、宮廷雀の噂話がやかましくなります。
マスコミ全盛の現代に似た政治環境です。
道長贔屓、伊周贔屓がそれぞれにフェイクニュースを流し合い、誹謗中傷、毀誉褒貶・・・噂の坩堝(るつぼ)ですね。
そんな中で経験の浅い伊周が動きます。
道長を襲うという計画がある・・・と言う噂を否定するために道長の元を訪ねますが、このことで大恥を搔くことになります。
以前の弓の競射に続き、双六でも大負けしてしまいます。