万札の顔 第4回 商売見習い

文聞亭笑一

今回のドラマは北武蔵の田舎村と幕閣・政権中央の動きが対比されて描かれ、それが、一つのリズムとなって軽快に進んでいる印象です。

先週、栄一の図書「論語と算盤」を紹介しましたところ、多くの反応を頂きました。

栄一の著作は、その他にも「青淵百話」などもあります。

この本を基に解説本「渋沢永一100の訓言(本質は古びない)・・・日経ビジネス人文庫」

という新書版を発行しているのが渋沢健で、栄一の玄孫(やしゃまご)に当たります。

渋沢栄一は、後に「青淵」と号していたようですね。

内山峠

栄一の実家は武蔵の国の北の外れである深谷ですが、栄一の少年期から青年期には、そこから上州を通過し、山越えをして信州・佐久方面に頻繁に商いに出ていたようです。

鉄道開通後の土地感覚しかない我々は、上信国境と言えば碓氷峠を想定してしまいますが、武蔵から佐久に抜けるには内山峠の方が近いですね。

中山道を高崎で別れて富岡、下仁田からの国道254号線で、内山峠を越えます。現在は内山トンネルができて短時間で通過できますが、栄一の頃は難路だったでしょうね。

この国道254号線の信州側は、秋になるとコスモス街道などとも呼ばれ、沿道に揺れるコスモスを鑑賞しながらのドライブは実に快適です。

栄一は毎年のようにこの道を通って、藍の買い付けや、藍玉の販売に精を出したのでしょう。

富岡と言えば世界遺産になった製糸工場がありますが、これも栄一の設立した会社の一つです。下仁田は鍋料理に使われる極太の「下仁田ネギ」で有名です。

先日、佐久に住む友人が

「内山峠を信州側に越えたあたりに、渋沢栄一の詩文を刻んだ石碑がある」

と、写真を送ってきてくれました。(下図)

右側が全体図です。道祖神があって、交通安全の観音様があって、その左上に自然石の巨岩を削った面に、栄一の詩文があります。

拡大してみると

「青淵先生内山峠を越えるにあたり・・・云々」と読めます。ともかく、凄い岩山ですね。

御用金

先週の場面で、栄一が父親の代理として岡部の代官屋敷に呼びだされ、御用金を申しつけられる場面がありました。

栄一が17歳、今でいえば、高2の時分のことです。高2の頃と言えば、最も正義感に燃える年代ですね。私の場合は安保騒動でした。

安保反対デモを生徒会で議決したものの校長に却下され、ならば…と「議会制民主主義を守れ」という「行進」に衣替えして、・・・実質的にはデモをしてしまいました。

ところで、御用金とは何でしょうか。

建前上は領民からの「借金」です。

・・・が、徳川300年の間に領民に強制できる借金」になり、徳政令で踏み倒せる借金・・・つまり「臨時の税金」に姿を変えています。

借金ですから、建前上は・・・侍が百姓に頭を下げてお願いするものです。

だから栄一は「父に相談して答えます」と返答したわけで、御断りも、減額もありうる性格のものです。

栄一は学問をして…、本来の意味を知っていますから…逆らいましたが、大人たちは諦めて「泣く子と地頭には勝てぬ」と従っていました。

ともかく士農工商の身分制度というのか、侍たちの横着さが定着してしまいましたね。

小林一茶の句に 雀の子 そこのけそこのけ お馬が通る があります。

「お馬」とはお侍のこと。 「雀の子」は庶民たち。

やれ打つな 蠅が手をする 足をする も、栄一たちが代官屋敷で平伏している姿に重なります。

一茶は自分たちのことを雀や蠅にして権力者の力の大きさを表現しているようです。

栄一と学問

栄一が学問を始めたのは6歳の時で、父親から「大学」「中庸」「論語」の素読を習います。

7歳からは隣村の尾高淳忠のもとに通いました。尾高淳忠は後に栄一の妻となる千代の兄です。尾高の教育法は当時の基本とは違い、暗記よりも通読、乱読を奨励し、自ら考えながら読解力を高めることに重きがありました。

「読みやすく、面白い物から入ればよい」と、「里見八犬伝」や「通俗三国志」なども奨励していました。

栄一は、それら面白おかしいものは勿論、「小学」「蒙求」「四書」「五経」「左伝」「史記」「十八史略」「日本史」「日本外史」などなど、分野を問わず手当たり次第に、読書に明け暮れたようです。

勉強でも仕事でもそうですが、面白くないとやる気が湧き出てきません。面白くする工夫こそが教育者の課題ですね。「面白くなくては仕事ではない」・・・こんなことも言いました。

私の弟が、自分の会社の標語、モットーを「よく遊び、よく遊べ」としました。「よく遊び、よく学べ」ではありません。

これが面白いというので、講演依頼があちこちから飛び込み、全国行脚をすると同時に、松本市の教育委員を務めることになりました。4年間やって…今年で退任のようです。

面白くする工夫としては競争環境づくり、ゲーム化、スポーツ化するという手があります。

上層部がルールを作って「やらせ」をしたのでは盛り上がりませんが、参加者が自らルール作りに参加して、ワイワイガヤガヤで始めたゲームは盛り上がります。

ルールに不具合があれば、自分たちで修正すればいいわけで、営業キャンペーンなどは実に楽しく盛り上がります。