万札の顔 第8回 暗い社会

文聞亭笑一

今回の物語では、維新の重要場面が毎回一話のような速さで駆け抜けていきます。

前回に将軍継嗣が家茂に決まり、安政の大獄が始まりました。

・・・と思っているうちに、今回は桜田門外で井伊直弼が暗殺されるようです。

渋沢栄一が活躍を始めるのは明治から大正、そして昭和までの時期ですから、嘉永、安政、慶応と言った維新の時期は、事件を追う程度になっても仕方ないかもしれません。

その点では、過去の「維新もの」とは違うテンポ、リズムの良さがあります。

千葉道場

維新の物語に登場する千葉道場は、二つあります。

赤胴鈴之助のモデルとも言われる千葉周作が作ったのが、お玉が池の千葉道場です。

千葉周作は気仙沼の出身で、全国各地を修行した後に北辰一刀流を開設し、お玉が池に道場を開きます。

その後、水戸家、とりわけ徳川斉昭に見込まれて水戸藩の剣術指南になります。

それもあって、藤田東湖とはとりわけ親しい間柄でした。

当然のことですが、尊王攘夷派になります。

弟子たちの中では浪士組を率いた清河八郎、新撰組で近藤勇と共に局長をした山南敬助、そして江戸城無血開城に活躍した山岡鉄舟がいます。

周作が安政2年に亡くなると道場は衰退傾向になります。

千葉周作の北辰一刀流の訓えは「それ剣は 瞬速、心、気、力の一致なり」

もう一つが周作の弟・千葉定吉が興した桶町・千葉道場です。こちらも流派は同じ北辰一刀流ですが、鳥取藩池田家の剣術指南を務めます。

さらに、門弟に坂本龍馬がいたことで有名です。龍馬と定吉の娘・女剣士の千葉佐奈子との恋物語や、息子の小太郎と龍馬が勝海舟を暗殺しようと勝の屋敷に乗りこむ場面などは、司馬遼の「龍馬が行く」の名場面の一つです。

今回の物語では、維新浪人や新撰組が登場するチャンバラ・シーンは期待できませんね(笑)

ともかく、栄作の妻・お千代の兄・長七郎が入門したのはどちらの千葉道場か…わかりません。

多分・・・水戸藩との関係がありそうですから「お玉が池」の方でしょうね。

そうなると、龍馬は出てきそうにありません。龍馬ファンには気の毒です。

「不勅許」の条約締結

維新物語では、その殆どが「不勅許」を「ケシカラヌこと」と、井伊大老の犯罪行為のように描きますが、これは明らかに言いがかりで、維新実行派の勝者の論理だと思います。

鎖国・・・という国策は、徳川三代将軍・家光が「朝廷の許可など無視」して決めた政策です。

むしろ朝廷に対しては、公家諸法度で「政治に口出しするな」と命令していますから、朝廷に許可を求める法的根拠はありません。

鎖国を解除して通商を始めようが、鎖国を維持しようが、法的、歴史的には幕府の勝手です。

ですから、大老(内閣総理大臣)井伊直弼が独断したことは、幕府内部で手続き上の問題があったにせよ、朝廷や天皇の意向など全く関係ないはずです。

孝明天皇は異国人を「穢れる」として随分と生理的、感情的に嫌ったようですが、そう言う態度こそ、国際交流が始まってからは批判の対象になります。

後に鹿鳴館などで「西欧の猿まね劇場」をやる維新政府の偉人たちは、実に身勝手な論理展開をし、それに迎合したマスコミなどの文化人と言われる連中が、歴史を捻じ曲げます。

「違勅」を声高々に叫んだのは水戸斉昭はじめ、尊皇派の面々です。

彼らの思いは朝廷の神秘性を生かして、譜代藩勢力に握られている政権を徳川親藩に取り戻したかっただけのことで、幕府内部での勢力争いに過ぎません。

さらに御三家の中でも水戸藩、尾張藩は、水戸黄門で知られる光圀が引退して以来、150年以上政権中枢から遠ざけられています。

とりわけ8代吉宗が紀州藩から将軍になると、紀州系の御三卿などという血脈家門まで作られ、「オヨビデナイ」状態になっていました。

紀州吉宗の血統が途絶える・・・政権交代の絶好のチャンスです。薩摩や土佐と言った外様の雄藩まで巻き込んで、なりふり構わず政権奪取に動いたのが「違勅の合唱」でしょう。

この時点ですでに「朝廷に大政奉還する」と言う路線が敷かれていたとみるべきでしょうね。

徳川慶喜は、そういう勢力のシンボル的存在でした。

「幕府を潰した、出来の悪い将軍」と言ったイメージで語られますが、そう言う路線に組み込まれてしまっていたわけですから、個人の能力評価とするのは気の毒です。

徳川保守派から批判されるとすれば、むしろ「天皇の特殊的地位を利用して幕府内の政権奪取を狙った父・斉昭」の方でしょうね。

いずれにせよ・・・鎖国は限界に達していました。そう言う国際情勢も知らず「攘夷」を叫んでいた国民全般と、海外勢力の開国要求を、国民どころか諸大名に、関係者以外には秘密にしていた幕府の双方に問題がありました。

安政の大獄での犠牲者

尊皇派、攘夷派ともに迫害を受けました。要するに「反政府勢力」の掃討作戦が始まります。

吉田松陰、橋本左内などの政治的活動家を始め、頼三樹三郎などの文化人までが対象になります。

安政の大獄の嫌らしさは、密告社会と言うか、岡っ引き根性というか、告げ口、噂話で逮捕、監禁といった警察権の濫用が行われるところです。

目下の朝ドラ「おちょやん」でも戦時中の密告社会の嫌らしさを描いていますが、これこそ暗黒社会でしょう。

野蛮だった時代の、歴史上の、いやな出来事・・・もう、決して起こるまい・・・と思いたいのですが、最近は更にひどいことが起きます。

ネット炎上・・・とか言って、猛烈な個人攻撃が起きます。それをまたマスメディアが「ニュース」と称して取り上げ、拡散します。だからマスゴミ。

コロナウィルス・・・天が現代人に与えた試問ではないでしょうか。

「誰かのせい・・・にして無策」だった米国は、多くの感染者と死者を出しました。

共産主義の強制力を使って、徹底的に封じ込めをやった中国は沈静化しています。

さて、日本は・・・地方首長の判断で、機動的に緩急をつけ乍らここまで来ましたが、第4波が来そうです。

「精神論」が限界であることは「解除後・大爆発」の大阪府が証明してくれました。

ドクトル・マンボウ(蔓延防止法)の効果は期待薄です。所詮は精神論です。

残る期待はワクチンしかありません。

政府のすることは、札束で製薬会社の頬をひっぱたいても・・・ワクチンの量を分捕ってくることしかないでしょう。

紳士的では・・・金持ちの中国や産油国に敵いませんねぇ。