万札の顔 第14回 円四郎討たれる

文聞亭笑一

維新の物語では、短い時間の中で多くの主役たちが活躍します。誰が主役かで、時間軸は伸縮自在、長い一年もあれば短い一年になったりします。

今年の主役・渋沢栄一が初めて歴史の舞台に登場したのが前回の「一橋家家臣」ですが、それは龍馬、西郷、海舟、新撰組・・・などのスターたちの、どの辺りの時期になるのか? 相対的時空間がわからなくなります。

物語の時期、前回の最後の場面で栄一と喜作が布団をかぶりながら、底冷えのする京の町で、下賜された祝酒を飲んでいたのは1864年の3月初旬です。

動乱の1864年

今回の番組放映の舞台となる、この年の出来事を整理してみます。

1月 参与会議始まる 長州処分、横浜鎖港を巡り、慶喜と島津久光が対立

3月 参与会議決裂 慶喜が島津久光、松平春嶽を罵倒

前回番組は、ここで終わっています。

    久光帰国、代わって西郷隆盛が薩摩軍・司令官として上京

関東では水戸天狗党が蜂起  ⇒⇒⇒ 12月に加賀藩に投降

5月 勝海舟が幕府・軍艦奉行に着任 

      神戸海軍伝習所設立 坂本龍馬が入門、塾頭

6月 池田屋事件・・・新撰組が攘夷浪人を襲撃 ・・・長州、土佐浪士討伐される

    平岡円四郎、水戸浪士に暗殺される

今回の物語では大事件です。栄一、喜作は上司・保護者を失います

7月 佐久間象山、暗殺される

    蛤御門の変   長州武装集団の御所への強訴

8月 英仏蘭米の、4か国軍艦が下関を砲撃、占領する

9月 第一次長州征伐始まる

西郷と勝の大阪会談

11月 長州藩の3家老切腹 長州征伐終了

12月 長州で高杉晋作が挙兵 ゲリラ戦術開始

西郷どん登場

西郷さん…3年前でしょうか。「西郷どん」として大河ドラマの主人公でした。健忘症の読者の皆さんでも、若干は記憶に残っていると思います。

島津斉彬に見いだされ、斉彬を神の如く尊敬し、斉彬の走狗として活躍しました。

・・・が、斉彬が亡くなると、後継の久光とは真っ向から対立します。逆らいすぎて奄美大島への島流しになります。

西郷から見たら、兄弟でも斉彬と久光では「月とスッポン」ほどの差があり、久光のことを「地五郎(田舎者)」と公言するほどにバカにしていました。なるべくしてなった島流しです。

大久保のとりなしで罪が許され、帰任して即、京に駐在の進駐軍の司令官を任されます。

これも大久保一蔵(利通)の計らいです。

円四郎、討たれる

今回の番組の中心テーマでしょうか。栄一たちのスポンサーが消えてしまいます。

前年の8月に、それまで若手公家と結託して朝廷を牛耳ってきた長州勢力が追放されます。

「八月の政変」とも言われますし、「七卿落ち」とも呼ばれます。

明治維新の勝ち組の書いた歴史で、三条実美以下の七卿は「英雄」「正義の味方」になっていますが、実のところは「全学連」「革マル」などと同様の口舌の徒、ハネカエリ分子でした。

主張も、やっていることも、花菱アチャコです(笑)「ムチャクチャデ ゴザリマスルガナ」

平岡円四郎は、江戸にいる頃から水戸浪士に狙われています。

水戸の攘夷浪士は、国許に残っていた者たちは天狗党として反乱軍を起こし、各地に散らばっていた者たちはテロ行為で幕府に「攘夷実行」を迫ります。彼らにとって唯一の期待は、彼らにとって神様のような存在であった水戸列公(斉昭)の息子である一橋慶喜が「尊皇攘夷」の実行をしてくれるに違いないという・・・信心でした。

その慶喜が、一向に尊皇攘夷に動きません。いや、むしろ開国路線に組しているようにも見えます。

そうなると・・・信者たちの発想は

「慶喜さまは尊皇攘夷に違いない。それを変節させているのは取巻きの奸物だ」となります。

円四郎は京都に来る前も狙われました。この時は、同じ側用人の中根長十郎が討たれました。

今度は逃げきれませんでした。二人掛かりで襲われました。

栄一薩摩へ?

予告編を見ていたら、栄一が「徳太夫」と名乗って薩摩に潜入するような話です。「大夫」と言うのは官職名の一つです。

四位、五位相当を諸大夫と言います。死ぬ直前に平岡円四郎が授かった官命が大夫・近江守でした。

薩摩への潜入、隠密探索は戦国時代、いや鎌倉期から至難の業です。まずは言葉の壁があって、余所者はすぐに見破られます。江戸期の忍者たち、プロの調査マンにとっても薩摩は最も難しい目的地です。今の北朝鮮に潜りこんで諜報活動をするようなものでしょう。

これは・・・京にいる西郷さんから、なにがしかの手形をもらっていないとできませんね。

平岡円四郎の後継者は、元水戸藩士の原市之進が担当しますが、その使い走りで栄一が薩摩屋敷に出入りしていたのでしょう。この辺りは栄一の記録にはないようですから、脚本家の創作かもしれません。慶喜は島津久光とは真っ向から対立しますが、西郷とは協調しています。

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蛤御門の変

天皇や公家の意向に沿って「攘夷」を決行しているのに、京を追われてしまった長州過激派は納得がいきません。

復権を求めて実力行使に軍を動かします。家老の来島又兵衛、思想家の久坂玄瑞を先頭に、武力による直訴・強訴を企てます。

これに対抗するのが禁裏守護総督の一橋慶喜と、京守護職の会津藩、更に傘下の新撰組です。

長州藩が大挙して押し寄せ、攻撃を仕掛けたのが御所西側の蛤御門です。そして、そこを守るのが会津藩・・・百年の怨念の始まりです。

戦いは、薩摩の西郷が会津の加勢に入って、長州勢力は壊滅しました。