敬天愛人 33 自由人・龍馬

文聞亭笑一

明治維新を語るとき、ヒーローとして大勢の人が挙げられますが、国民的人気が一番高いのは 坂本龍馬ですね。群を抜いています。

明治維新というのは、実に大勢のスターが登場する物語で、大河ドラマの主役として取り上げていい人材が20人~30人はいるのではないでしょうか。いや、それでも足りないかもしれません。50人~100人ほどはいるでしょうから、大河ドラマのネタは尽きません(笑)

今回のドラマでも、主役は西郷吉之助ですが、大久保一蔵、島津斉彬、島津久光などが準主役として扱われ、そしてここ数回は坂本龍馬が登場しています。

坂本龍馬が「維新」に貢献した事蹟は何か…。  二つあります。

一つは、薩長同盟の締結を周旋したことです。その実務を担当しました。

二つ目は「船中八策」と言われる「この国の形=憲法原案」を作り上げたことです。

・・・いずれも龍馬自らの発案ではありません。その殆どは勝海舟のアイディアであり、請け売りです。また、松平春嶽の資金力での行動でもあります。

出身地の土佐藩は全く支援してくれませんでしたが…、脱藩浪士である坂本龍馬や、中岡慎太郎を追及せず、自由にさせておいたということが・・・土佐藩の維新への最大の功績でした。

何もしなかった、不作為が維新を後押しした・・・などと云ったら土佐人は怒るでしょうね(笑)

「そげんなことばぁいうちゃぁいけんぜよ」 土佐異骨相先生の顔が思い浮かびます。

寺田屋事件

伏見の船宿、寺田屋を舞台にした寺田屋事件というのは二度あります。

一度目は1862年、島津久光が薩摩急進派の者たちを粛清した事件です。

そして今度の二回目は1866年、坂本龍馬が官憲の手で襲われ逃走した事件です。

ドラマ的にはこちらの方が有名ですね。入浴していたお龍さんが、窓の外に蠢く気配に「官憲の手入れ」を察して全裸のまま飛び出してそれを伝え、龍馬を逃がす…。

これは絵になりますねぇ。将にドラマチックです。

この時、龍馬は左手の大怪我をします。新鋭の武器、ピストルに頼るあまりに、得意の剣術を忘れていたようです。

こういうことは我々にもよくあることで、パソコンの機能を使えば大概のことは格好良くこなせるのですが、ある日突然PCがトラブったら…手書きの技を使うことを忘れパニックになります。筆記用具はありとあらゆるものが揃っているのですが、常日頃使っていないと急場の役に立ちませんね。机の上の・・・普段使わない文房具の多さに・・・何か、罪の意識も感じます。

歴史的には無視してよい事件が「歴史年表」にすら残る理由は何でしょうか?

「自由」の幕開けの「象徴的事件」として取り上げられたからかもしれません。

全裸で駆けまわり、愛する人を救ったお龍さん

そのお龍さんとハネムーンに霧島に出かける龍馬のレディーファスト

当時の日本人にとって「アッと驚く為五郎」です。

江戸から明治へと文化大革命を起す象徴的事件だからではないでしょうか。

パークス&アーネスト・サトウ

西郷たち薩摩藩の首脳部は、龍馬とお龍さんの「日本初の新婚旅行」に付き合って、霧島山の栄之尾温泉に湯治に行きます。京都からの帰路とはいえ、小松帯刀、西郷、吉井、桂久武などの薩摩藩首脳部が一週間近く温泉でサボるというのですから…のどかですねぇ。

これで良いんです。事件のない時は・・・政府は出る幕がありません。官僚も昼寝をしていればよいのです。これが・・・そうもいかなくなったのは、官僚の給料が上がり過ぎたことですね。

「仕事をしないのが官僚の理想」ですから、当然・・・給料は安い

「給料分だけ仕事をしろ」というのが納税者のヒガミ、ヤッカミ

バカなマスコミは「役人の給料は高すぎる」などと重箱の隅を突きますから、役人は極力仕事をしないように身を処します。だから…事件があってももみ消して「無事これ名馬」で行きたいと考えます。私などは民間企業で人生を送ってきましたから「官僚」の皆さんの本心のところは分かりませんが、民間でも「本社」というところで働く者は「官僚」です。

私も、その官僚を何年かやりました。

事が順調に進んでいる時、官僚は仕事をしてはいけませんね。

官僚が働くのは事件が起きた時です。こういう時に専門知識が生きます。

…ところが、順調に言っている所に「イチャモン」を付けて仕事をし、ピンチになった部門を支援するのではなく、あら捜しをして足を引っ張るのが官僚ですねぇ。

本社部門に残業の多い会社、あまり良い会社ではなさそうです。事件もないのに現場を掻きまわして仕事を作っているか、それとも事件の頻発でてんてこ舞いか…、いずれにしても碌なことをしていません。

イギリスは公使としてパークスを日本に派遣します。その通訳として従ってきたのがアーネスト・サトウ、この二人が陰に陽に明治維新に影響を与えます。

当時の日本に興味を持っていた欧米の国は米英仏露蘭の5か国でした。

ロシア(露)は、千島列島から北海道を「自国の領土」と奪うのが目的で接近してきます。

オランダ(蘭)は、日本市場への専売権を維持しようと幕府にこだわります。

アメリカ(米)は、捕鯨の基地づくりを目的に日本に接近しましたが、南北戦争が起きてそれどころではありません。一歩引いています。

そこで…日本に内政干渉し、植民地化したいと触手を伸ばすのはイギリスとフランスです。

フランスは北海道を担保に、莫大な資金援助と武器調達を幕府に働きかけます。慶喜がどこまで関与していたのか・・・不明ですが、小栗上野介などの経済官僚は、その借款を前提に、薩長討伐計画を準備していたようです。

一方の薩長、とりわけ薩摩は急速にイギリスに接近します。イギリスも「幕府は見限った」と薩長に肩入れしてきます。英仏の代理戦争的になって、実に危険な状態なのですが、ここで国際感覚のない、というか、英語もわからず、欧米文化を知らない西郷どんの、キャラクターが生きます。誠実に対応しますが、決して迎合しません。

日本人は「迎合する」のを美徳とする文化の中で生きてきましたが、悪意の相手に迎合したらオレオレ詐欺のカモになります。明治維新・・・詐欺、ペテンの時代でした。