雪花の如く 第11編 利権争奪
文聞亭笑一氏作”雪花の如く”を連載します。NHK大河ドラマ「天地人」をより面白くみるために是非ご愛読下さい。
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各編と配布月日
第28編:07月23日号
第27編:07月16日号
第26編:07月09日号
第25編:07月02日号
第24編:06月25日号
第23編:06月18日号
第22編:06月11日号
第21編:06月04日号
第20編:05月28日号
第19編:05月21日号
第18編:05月14日号
第17編:05月07日号
第16編:04月30日号
第15編:04月23日号
第14編:04月16日号
番外編 :04月09日号
第13編:04月01日号
第12編:03月21日号
第11編:03月21日号
第10編:03月12日号
第09編:03月04日号
第08編:02月25日号
第07編:02月18日号
第06編:02月11日号
第05編:02月04日号
第04編:01月27日号
第03編:01月21日号
第02編:01月14日号
第01編:01月07日号

雪花の如く

第11編 利権争奪

文聞亭笑一作

御館の乱は約一年間続きます。 謙信が育て上げた強力な越後軍が、内部の主導権争いで全く外に目が向きませんから、最も得をしたのは信長です。北から攻撃を受ける心配は全くなく、近畿の支配を安定化させ、西に向かって進出する絶好の機会が転がり込んできました。 石山本願寺との争いは長期戦になっていますが、明智光秀による丹波攻撃、秀吉による播磨への進出、目は専ら西の毛利を向いています。越後の内乱は分散していた兵力を、毛利に向けて集中させるまたとない機会になりました。

が、幸運ばかりではありません。部下であった荒木村重が毛利、本願寺と連携して謀反を起こします。信長のほうも、身内の反乱で躓いていました。 村重の反乱、原因は小説家によって描き方が異なりますが、信長の人事管理の失策でしょうね。部下を、道具としてしか考えていなかった合理主義の歪が顕在化しつつありました。 いわば、本能寺の変の予兆でもありました。

ヨーロッパ型の専制君主を目指す信長にとって、政治に対して一家言を持つ荒木村重や、明智光秀は邪魔になりつつありました。 このことは、荒木や明智にとっても同様で、信長に使い捨てにされることに我慢できなかったものと思われます。同盟軍の家康も、薄々その不安を感じ取っていました。

一方、越後では、骨肉の争いが始まります。 景虎派は春日山城を包囲し、近隣の城のほとんどを味方に付けて、絶対的優位を築き上げます。景勝派は篭城するしか手がありません。

22、直江信綱は、年少の兼続の意見を頭から否定してかかっている。さりとて、信綱自身に、現在の苦境を脱する妙案があるわけでもなかった。「物事はやってみねばわかりませぬ」

御館の乱は後継者争いが表向きですが、裏では商業利権の争いです。 主だった武将たちの思惑を追いかけてみます。 景虎を擁して、政権を獲ろうと画策していた者の中心人物は上杉景信で、謙信の分家筋に当たります。謙信には疎んじられ、政治、軍事面ではあまり活躍していませんでした。 彼は、景勝と麻の利権で対立関係にあり、景勝を取り除いてしまえば、越後の麻製品の専売権を手に入れることが出来ます。しかも魚沼郡全域を支配下に加えることが出来ます。 謙信が存命中は手出しできなかった、利権を手に入れる絶好のチャンスです。 しかも、政治力のない景虎を傀儡にして、実質的に政権を奪うこともできます。

柿崎晴家と直江信綱…、彼らは関東への商業権を自分のものにしたいと考えていました。 北条(きたじょう)高広が独占している商業税の利権争いです。乱の初期、この3人の駆け引きは壮絶でした。まずは謙信の葬儀の前に、直江信綱が柿崎を暗殺します。ライバルを消してしまいました。表向きの理由は「柿崎は景虎派の中心だ」というものですが、暗殺という手段に、敵を多く作りましたね。中間派を景虎派に走らせました。 続いて信綱は、同じ景勝派にいた北条高広の伯父を暗殺します。北条が同じ陣営にいては、勝ったとしても利権が転がり込んでこないからです。このことで大勢力の北条一族を敵に回しますが、目的のためには手段は選びません。

景勝、兼続が初期の戦いで不利に立った最大の原因は、直江信綱のこの動きで、日和見していた者たちを、敵方に回してしまいました。春日山城の周り、上越地方は、ほとんどが景虎派になり、春日山城だけが孤立してしまったのです。 戦国物語を読むと、土地の争いを中心に描かれることが多いのですが、「土地=米」もさることながら、商業利権の争いのほうが熾烈だったのではないでしょうか。土地をもらうと軍役が付いてきます。戦争に駆り出されたら金がかかります。米は売らないと金になりませんが、運上金は現金収入です。この時代もやっぱり金の力は魅力的だったのです。 徳川幕府になってから、街道筋の関所はすべて幕府が直営にしましたね。水戸黄門に出てくる、悪名高き「お代官様」は、いわば税務署長の役割だったのです。 誰にとっても税金を取られるのは嫌ですから、代官はすべて悪代官になります。(笑)

ともかくも、敵中に孤立した春日山城では籠城戦しかありません。 1500人近い兵士が山に籠もるのですから、水と食料は膨大に必要です。春日山城は水の心配はありませんが、食糧の備蓄は十分とはいえません。この調達が第一の難問でした。 兼続が、桑取谷からのルートを提案しますが、直江信綱に一蹴されます。

「物事はやってみねばわかりませぬ」

全くその通りで、ピンチのときは、可能性のあることに挑戦してみるしかないのです。

現代でも、一億総評論家の時代で、新しいことの提案は、寄って、たかって叩かれますが、やってみないとわからないことばかりです。やってみる勇気があるかどうか、それが運命を分けますね。「まずやってみる」これがベンチャー企業といわれる会社の、伝統的行動指針ですが、こういう伝統は残しておいて欲しいものです。

23、「その誇りに問いたい。お前たちは、年貢の多寡によって、領主の器量を推し量るのではあるまい。誰が最も領主にふさわしいか、お前たちの誇りにかけて判断してもらいたい」

桑取谷には謙信が各種の特権を与えていました。城の裏山に当たりますから、籠城戦ともなれば、重要な場所です。ここを味方に付けるか否かで、展開が大きく変わります。兼続が行くよりも前に、既に、景虎派の手が回っていました。「年貢免除」という利益で釣っていたのです。 戦国も、現代も、利益の大小によって物事を判断しますが、利益の供与合戦になると泥沼です。天井知らずになります。後に起こった関が原では両軍ともに日本が100州以上あることになってしまいました。

公共事業でも、部品の購買でも、「入札こそ正義」というムードですが、果たして価格だけの商売が正しいのかどうか、大いに疑問の残るところです。品質の安定性や、物流の安心など、非価格の部分をどう評価するか、すべてが数字に置き換わるとは限りません。短期の利益を取るか、中長期の展望を考えて判断するか、それこそが経営の要諦なのです。 昨近、商売知らずのマスコミ記者が、余計なことを言いすぎです。

24、城下に火を放つのは、城攻めを行うときの常道である。ふもとの町を焼き払い、 城を裸にしてから、総攻撃を仕掛ける。 果たして―――翌日、敵は来た。

御館の乱は、まず、景虎派の春日山城攻めから始まりました。城攻めは攻撃する方が3倍以上の勢力がないと、うまくいきません。この時点では1500に対して4000で襲い掛かりましたから微妙な戦力差です。しかし、攻撃する兵士たちは、昨日まで自分たちが住んでいた場所ですから、守備側の弱点を熟知しています。どこに、どんな仕掛けがあるかは分かっています。防塁堅固な大手門からは攻めません。裏口、搦め手から攻めてきます。

黒金門、千貫門での戦いが激烈でした。が、軍神といわれた謙信の作った城です。数の力だけでは突破できません。攻撃側は意表をついて谷をよじ登って攻撃しますが、城方に察知されて奇襲部隊が全滅してしまいます。この日の戦いはこれで勝負が付きましたが、城方も追い討ちをかける余裕はありません。

NHK大河での兼続は、2月までの放送では女々しく、泣き虫与六ですが、この戦いあたりから獅子奮迅の活躍を始めます。殺さなければ殺される…戦争とはそういうものです。

現代も…自由主義経済というものは、戦争と似た側面を持ちます。企業間の争いにおいても「やらなければ、やられる」「目には目を、歯には歯を」という心理状態になります。 良い、悪い、の問題ではなく、生存競争とはそういうものです。

それにしても、身内の争い、骨肉の争いは本を読んでいるだけでも嫌なものですね。 親と子が敵味方に分かれる。兄弟が敵味方に分かれる。親しい友人同士が殺し合いをする。

どれをとっても、悲しく陰惨です。今でも、地球上のあちこちで、こういう戦いが起こっていますし、もっと身近なところでは、親の遺産を争って兄弟喧嘩が起こるケースなどは枚挙に暇がありません。「利権」…利益と権力ですが、人間の持つ煩悩の最たるものですね。

隣の北朝鮮で、後継者問題が取りざたされています。いまどき世襲は?とも思いますが、日本の天皇家も、西欧やアラブの王様も、みんな世襲です。日本の代議士先生だって、皆世襲です。程度の差だけのような気もします。

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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