雪花の如く 第22編 景勝上洛
文聞亭笑一氏作”雪花の如く”を連載します。NHK大河ドラマ「天地人」をより面白くみるために是非ご愛読下さい。
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各編と配布月日
第28編:07月23日号
第27編:07月16日号
第26編:07月09日号
第25編:07月02日号
第24編:06月25日号
第23編:06月18日号
第22編:06月11日号
第21編:06月04日号
第20編:05月28日号
第19編:05月21日号
第18編:05月14日号
第17編:05月07日号
第16編:04月30日号
第15編:04月23日号
第14編:04月16日号
番外編 :04月09日号
第13編:04月01日号
第12編:03月21日号
第11編:03月21日号
第10編:03月12日号
第09編:03月04日号
第08編:02月25日号
第07編:02月18日号
第06編:02月11日号
第05編:02月04日号
第04編:01月27日号
第03編:01月21日号
第02編:01月14日号
第01編:01月07日号

雪花の如く

第22編 景勝上洛

文聞亭笑一作

上洛とは、御所に参内して天皇に拝謁することを言います。ただ京都に観光に行くだけではありません。上杉家としては、謙信が過去に上洛していますから2度目ですが、今回は秀吉の斡旋によっての上洛ですから、まずは大阪城に出向いて、秀吉に挨拶をしなくてはなりません。つまり、秀吉に従うことを、天下に披露するのです。

この頃、徳川家康も抵抗をやめて、秀吉に臣従する決意を固めていました。 したがって、上杉と徳川は「どちらが先に臣従するか」の競争関係にあったのです。

秀吉にとって敵対する勢力が存在する間に、臣従の意思を表明するほうが、交渉条件は有利になります。

入社年度の早いほうが先輩として威張れるという道理と同じことです。実力とは関係なく、先輩風を吹かせるというのは、現代にあっても、同様であるのと同じです。

家康が、抵抗をやめる気になった大きな原因は、上杉の動向でした。秀吉の妹を嫁にもらったり、母親を質に取ったりというのは、ただの駆け引きです。自分の値打ちを天下に知らしめるための、広告宣伝に過ぎません。

家康が、仮に秀吉と戦うとして、上杉が敵になってしまうと、西と北から攻められ、兵力が分断されます。秀吉に対しては、木曽川の防衛線をはさんで対峙しなくてはなりません。一方、上杉は北信濃から深志、諏訪、伊那と攻め込んで天竜川を攻め下ってきます。

家康の本拠地である浜松が狙われてしまいます。小牧・長久手の戦では、家康の陣地の脇をすり抜けて、岡崎を狙った秀吉の甥・秀次を撃退しましたが、今度は後ろから回りこまれますから、防ぎようがないのです。その上、秀吉の軍には、永年の盟友だった石川数正までもが、軍師として従っています。徳川の手の内は読まれていますから、到底勝ち目がありません。酒井、本多、井伊、榊原といった好戦派の徳川四天王も、流石に反対は出来ませんでしたね。勝負は歴然としていたのです。

58、今までと同じ地平に留まっていては、流れに飲み込まれてしまう。上杉家自身が変わっていかねばならない。そのためには、自分自身も変えていかねばならない。
今までは越後から天下を見ていたが、今後は天下から越後を見つめ、上杉家の進むべき方向性を決める時代が来ていた。

現代の企業経営と全く同じことです。「現状維持は退歩なり」ということです。

いつの時代にも民意の流れがあります。戦国時代末期の大きな潮流は「厭戦」すなわち、戦争に飽き飽きしていた民衆の、平和への願望でした。

特に、信長による大量虐殺や、日本式戦争ルールを無視した皆殺し殺戮には、憎悪感を以って眺めていました。鉄砲による闇討ち的殺戮にも、嫌悪感を持っていましたね。

それまでの戦争は、集団戦闘においても、それぞれに名乗りを上げて、戦っていましたが、鉄砲での組織戦法は、名乗りなど上げている隙はありません。いつ、どこから弾丸が飛来するか分からないのです。個々人の能力よりも、鉄砲の数と、煙硝の量と、鉛の量で勝負が決まるのです。

現代の戦争も同じです。戦国時代の鉄砲が戦闘機に替わり、煙硝とはミサイルや石油燃料、鉛玉の替りが原爆です。軍事国家である北朝鮮が、その三つを欲しがるのは当然で、軍事国家としての3種の神器でもあります。北朝鮮が、軍事国家を放棄しない限り、決して、原爆の開発は諦めないでしょう。

改革を進めるには、まずは、スタンス(立場)を変えてものを見ることから始まります。

兼続の立場は、「越後」と、「日本」のスタンスチェンジです。

そうすると…「私が変わる、あなたが変わる」で、周りが変わっていくのです。

政治家も、経営者も「私が変わる」をせずに、「改革」ばかり叫んでいますから、世の中は何も変わりませんね。

59、「さればこそ、徳川を試すのだ」
三成は目の奥を鋭く底光りさせ、
「小田原攻めの反応次第で、家康めの性根のほどが明らかになろう。おとなしく従うか、それとも、仮面をかなぐり捨てて豊臣家に牙を剥くか」
「性根のほどがしれるな」
「いかにも」

石田三成、どうしても…現代の官僚エリートに重ねて見てしまいます。

歴史小説の中では、「現場を知らないエリート」として描かれることが多いのですが、戦争体験が少ないというだけで、現場はたくさん踏んでいます。特に、物流ではプロ中のプロで、秀吉の物量作戦を支えた、陰の功績者です。軍人ばかりを英雄に描くのが戦国物語ですから、経済官僚は評価されませんが、経済こそが戦争の勝負を分けるのです。資金繰りの名人であった三成などは英雄と言って差し支えありません。

上杉軍団にあっても、お船の父親である直江景綱や、兼続の父親・樋口総右衛門などがいたからこそ、豊富な物量作戦が展開できたのです。

内政面でも、彼の最大の功績は「太閤検地」です。正確な測量と、地味を調査して税収を統一した功績は、戦国の収束に多大な貢献をしました。この、三成の功績の上に、内政上の若干の手を加えて出来上がったのが徳川幕府です。三成の功績を素直に賞賛できませんから、三成を必要以上に辱める記述をでっち上げましたね。特に、家康を「神君」として祀り上げるに際しては、多くの虚構を積み重ねました。家康が立派であるためには、家康に敵対したものは、すべて悪党でなくてはならないのです。江戸時代は、太閤記ですら不良文書として睨まれていましたから、三成関係の功績などはすべて抹殺されています。

三成の旧領を治めた彦根の井伊家などが、その作業を受け持ったのでしょうか。

秀吉は、小田原攻めの先鋒を徳川に命じます。徳川が小田原の北条と同盟関係にあるのを知ってのことです。

「豊臣を採るか、北条をとるか」と2者択一を迫ったのです。

仮に、徳川が反逆したとしても、秀吉は全く心配をしていません。むしろ、北条と共謀して牙を剥いてくれるほうがありがたいとすら計算していました。徳川が北条と連携しても、関西以西の軍隊は家康の本拠地である浜松まで進駐しています。北からは前田、上杉の連合軍が迫り、東からは佐竹の軍勢が圧力をかけます。3方面から取り囲んで、袋の鼠です。

家康と、北条をあわせて13カ国(三河、遠江、駿河、伊豆、甲斐、信濃、相模、武蔵、上総、下総、安房、下野、上野)のうち、三河、遠州までは秀吉本隊が乗り込んでいます。

信濃、甲斐は前田を筆頭にする北陸軍が侵入しています。上野、武蔵は上杉が進攻しています。房総3国と下野は佐竹が手に入れてしまいます。そうなると…残るは駿河、相模、伊豆の3カ国だけ、伊豆半島に籠もるだけしか手がありません。時間の問題です。

徳川だけでなく、織田信雄にも先鋒を命じました。家康よりも、信雄のほうが反乱に色気がありましたね。秀吉に命令されるなどということは、信長の次男として耐えがたかったのです。しかし、家康の態度を見て、意欲が消えてしまいました。

もう一人、反乱に色気があったのが東北の伊達政宗です。徳川が裏切ったら、一気に佐竹をつぶし、常陸、下野まで南下しようと目論んでいました。家康の態度に一番失望したのは正宗だったのです。

60、人と人の間の信義は、ほかの何にも増して優先されるべきものである。信義なくして、世は成り立たない。それを失ったとき、国は麻の如く乱れる。

義を重んずる兼続の基本姿勢がこの言葉です。

兼続は、石田三成の政治感覚、経済感覚にほれ込みます。バブル感覚の秀吉とは一歩距離を置きますが、三成との関係はいっそう深まっていきます。天下国家は、この人を中心に回っていくと、越後の将来を石田三成に託しました。

信と義、五徳といわれる「仁義礼智信」のうちの二つですが、兼続は、とりわけ信と義を大切にしたということでしょうか。信と義を失ったら国は乱れると言っています。

現代は「智」が最重視される時代で、次に「仁」が叫ばれます。野党の新しい党首になった人は「友愛」などといいますが「仁」のことですよね。マスコミが盛んに力説している方向です。

与党と野党の間に信義などは全く存在しません。企業間でも、メーカと流通の間に信義などは希薄になってきました。業界というくくりで、日本的談合という信義の世界が存在していましたが、いまや悪の筆頭に上げられています。

一番小さな単位の家庭ですら、信義がなくなってきましたねぇ。親殺し、子殺し、相続争いでの訴訟…そんなニュースばっかりです。今は、国は麻の如く乱れる なんでしょうか?

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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