雪花の如く 第28編 太閤検地
文聞亭笑一氏作”雪花の如く”を連載します。NHK大河ドラマ「天地人」をより面白くみるために是非ご愛読下さい。
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各編と配布月日
第32編:08月27日号
第31編:08月20日号
番外編:08月13日号
第30編:08月06日号
第29編:07月30日号
第28編:07月23日号
第27編:07月16日号
第26編:07月09日号
第25編:07月02日号
第24編:06月25日号
第23編:06月18日号
第22編:06月11日号
第21編:06月04日号
第20編:05月28日号
第19編:05月21日号
第18編:05月14日号
第17編:05月07日号
第16編:04月30日号
第15編:04月23日号
第14編:04月16日号
番外編 :04月09日号
第13編:04月01日号
第12編:03月21日号
第11編:03月21日号
第10編:03月12日号
第09編:03月04日号
第08編:02月25日号
第07編:02月18日号
第06編:02月11日号
第05編:02月04日号
第04編:01月27日号
第03編:01月21日号
第02編:01月14日号
第01編:01月07日号

雪花の如く

第28編 太閤検地

文聞亭笑一作

秀吉の女好きは、つとに有名ですが、果たしてどこまでが本当か? 計りかねます。 つまみ食い専門と言うのか、他人の持ち物をやたらと欲しがる幼児性があったとしか思えませんね。マザーコンプレックスが、形を替えて出てきたのでしょう。

母親と、妻の寧々には全く頭が上がりません。顔を合わせれば叱られてばかりいます。 尊敬と言うのか、神として畏れ奉ると言うのか、まさに、恐妻家そのものです。

ところが、正妻の寧々に子が出来ません。戦国武将、為政者としては重大な問題で、後継者が決まらないと政権が安定しないのです。これは重大な政治問題で、後継者争いという火種を抱えることになってしまいます。

お袋様も、寧々も公認で「子作り」に励まなくてはならなくなりました。相手は誰でも良いと、手当たり次第に手をつけますが、出来ません。精子の製造能力がなかったらしいですね。原因は秀吉にありそうです。尤も、私は産婦人科医ではありませんから断定できませんが、データ的に解析すればそういうことになります。

では、なぜ、淀君・茶々にだけ出来たのか? 摩訶不思議ですが、人工授精の名人がいたんでしょうね。誰かは推理小説の世界の出来事です。

お菊は夫の景勝を変わり者だと思っている。よく世間では、呼吸のあった夫婦を「阿吽の仲だ」という。「あ」は吐く息、「うん」は吸う息のことで、阿吽の仲とは呼吸がぴったりと合うということだろう。
ところが、私と景勝様とは「阿吽」ではなく「ああ・うん」だと、お菊は思っている。

景勝の無口もここまで来れば微笑ましいですねぇ。

何か話しかけると「ああ」という。「ああ」だけでは分からないから確認すると「うん」という。これだけの会話で、お菊との夫婦生活ができていたと言いますから、たいしたものです。お菊のほうも無口だったようですから、似たもの夫婦です。それでいて、仲は非常に好かったと言いますから不思議です。

まぁ、現代の女性が西洋かぶれをして、愛情表現を要求しすぎるのも困ったことです。

愛情の表現は、言葉だけではありませんからね。言葉にすると、なかなかに難しくなります。語彙が豊富な人は、さまざまな表現の言葉を使い分けるのでしょうが、ボキャブラリーが少ない者は往生してしまいます。目と目の会話・・・だけでわかって欲しいですねぇ。

歯が浮くような言葉を使うのは、拷問に掛けられたように辛いものです。(笑)

秀吉が、人質として大名の妻を京都に住まわせることを要求してきます。断るわけにはいきません。景勝は、自発的にお菊を京都に住まわせることを申し出ます。

京都屋敷に住むことには、何の問題もないのですが、問題は秀吉の女好きです。 お菊が、秀吉の閨房に引き込まれるなどは、想像するだけで狂いそうです。

「お船をつけてやりましょう」

兼続の、この提案で、ようやく決心がつきました。世間知らずのお菊と違って、お船は越後の忍者軍団・軒猿の棟梁なのです。しかも、景勝や兼続と対等に渡り合うほどの女丈夫です。何とかしてくれる・・・と、期待するしかありません。

実際に、秀吉は何度もお菊を聚楽第に呼びつけ、事を図ろうとしますが、毎回お船が付いてきて、はぐらかされてしまいます。秀吉にすれば、お菊を征服することは上杉(謙信)だけでなく、武田信玄も征服することになると、意気込んでいたようですね。

信玄・謙信を一度に抱いたと、威張りたかったようです。いわば、サド趣味ですね。

お船の防衛策は、お菊に代わって喋り捲ることでした。秀吉の御伽衆であるソロリ新左衛門との、掛け合い漫才で秀吉を笑わせて、その気にさせません。秀吉が誘うと「私も一緒に」とせがんで、毒気を抜いてしまいます。秀吉にとって見れば、怖い寧々に見張られているようで、到底その気になれませんでした。

「兼続め! 計りおったな。それにしても良く似た夫婦だ。無口・無表情な景勝夫婦、知恵の回る兼続夫婦、天晴れなものだ」

関東攻め、奥羽攻めの功に対して、上杉家は新たに庄内3郡の領有を認められた。
これで、越後、佐渡の二カ国に信濃・川中島4郡、庄内3郡を加えて91万石に膨らんだことになる。しかし、土地よりも、酒田の港を手に入れたことは大きかった。

しばらく、市場・商業・経済の話題から離れていましたが、商業の拠点である酒田を誰に任せるかと言う点で、秀吉と三成は苦慮したようです。

江戸時代まで、日本海が海運の幹線であったことは今までにも述べましたが、日本海海運の拠点は、まず、若狭の小浜に始まります。京・大阪からの物資は陸路を若狭に出て、そこから舟に乗ります。日本海の陸沿いに越前・敦賀を経て、越後の直江津、そして出羽・酒田へとつながり、更に陸奥・土崎へと伸びていきます。秀吉の時代には 西の堺、東の酒田といわれるほどの賑わいを示していました。

港の管理もそっくりで、堺が36人の会合(えごう)衆(しゅう)の合議で自治を行っていたのに対し、酒田も36人の長人(おさびと)による自治を行っていました。商都としては東日本第一の場所だったのです。

商業資本を重視する秀吉としては、それまでの領主・最上では信頼できません。伊達と並んで、最上義光は家康と通じたり、秀吉の意に従わぬことが多かったのです。そのこともあって、最上から海を奪い、山形に追ってしまいます。東北勢では土崎の港を抱える津軽家が厚遇を受けました。南部から独立して大名に認められています。ともかく、秀吉政権にあっては商業を扱えるものが重宝されましたね。

商業のよさは、情報の速さと、情報に対する感性の鋭さです。これがなくては、秀吉の変幻自在の政治についていけません。安土桃山文化というのは、商人たちの自由で奔放な文化なのです。多分にベニス、フィレンツェのように、イタリア的でしたね。

酒田および庄内3郡の加増は、喜んでばかりはいられませんでした。検地によって、石高を確定しなくてはなりません。検地の担当は大谷義継でしたが、その手際よさに兼続は舌を巻きます。測量技術もさることながら、計算や地味の測定法など、知らぬことばかりを見せ付けられます。上方の進んだ技術力に圧倒されます。

これまで米一石の収穫を上げられる田の面積を一反としていたので、土地の条件によって一反の面積は異なっていた。米一石は大人一人の一年間の消費量に相当していたので、その面積はおおむね、360歩とされていた。
秀吉は6尺3寸四方を一歩とし、一反=360歩を300歩に改めた。一反あたり2割がたの増税になる。更に、4公6民の税率を2公1民と改めた。

             <近衛龍春;直江兼続より>

これがいわゆる「太閤検地」の実態です。

ものすごい増税ですね。旧税制で言えば、一反の田で支払う税金は0.4石です。

これが新税制になると<1.2×2÷3>で0.6石になります。

今までの1.5倍ですから堪ったものではありません。一揆が勃発します。新領で一揆が起これば「統治能力なし」と解任されてしまいますから大名も必死です。

既に先年、肥後の国主になった佐々成政が一揆を鎮圧できず、解任され、切腹させられていますから、上杉としても必死にならざるを得ません。

ただし、この税制改革には裏があります。じつは、農民の税負担が極端に増えたわけではありません。農民は、もともと0.5〜0.6石を支払っていました。そのうちから、地侍と呼ばれる下級役人が闇で0.1〜0.2を中間搾取し、領主には0,4しか払っていなかったのです。太閤検地の税制改革は、要するに、間接税を直接税に改め、中間搾取分を撤廃したのです。したがって、一揆を起こしたのは農民ではなく、地侍たちです。

自分たちの収入がなくなってしまうのです。 戦後、農地解放で不在地主の中間搾取を撤廃したのに似ていますね。

秀吉の狙いは、この種の地侍を掃討し、武士をサラリーマン化したかったのです。

兵農分離策で、刀狩も同時に進行させます。地侍には、武士としてサラリーマンになるか、農民として刀を捨てるかを迫った大改革です。

これによって、武士を辞める地侍が半分以上出ました。先祖伝来の土地を取り上げられてしまうことを嫌ったのです。このことは、結局、地方大名の戦力を低下させます。自ずと動員兵力が小さくなってしまいます。

こういう政治手法にも…兼続は驚かされました。奉行衆と呼ばれる豊臣家の経済官僚の凄さにも舌を巻いたのです。

戦後もそうですが、オイルショック、バブル後も、米国式の経営管理手法が入ってきて、日本企業は驚きました。「こんなやり方があったのか!」とこぞって真似をしました。

アウトソーシング、派遣社員、リストラ…、兼続と同じ思いがする昨今ですね。

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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