雪花の如く 第24編 国家構想
文聞亭笑一氏作”雪花の如く”を連載します。NHK大河ドラマ「天地人」をより面白くみるために是非ご愛読下さい。
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各編と配布月日
第31編:08月20日号
番外編:08月13日号
第30編:08月06日号
第29編:07月30日号
第28編:07月23日号
第27編:07月16日号
第26編:07月09日号
第25編:07月02日号
第24編:06月25日号
第23編:06月18日号
第22編:06月11日号
第21編:06月04日号
第20編:05月28日号
第19編:05月21日号
第18編:05月14日号
第17編:05月07日号
第16編:04月30日号
第15編:04月23日号
第14編:04月16日号
番外編 :04月09日号
第13編:04月01日号
第12編:03月21日号
第11編:03月21日号
第10編:03月12日号
第09編:03月04日号
第08編:02月25日号
第07編:02月18日号
第06編:02月11日号
第05編:02月04日号
第04編:01月27日号
第03編:01月21日号
第02編:01月14日号
第01編:01月07日号

雪花の如く

第24編 国家構想

文聞亭笑一作

小田原の戦いは、石垣山の一夜城、小田原評定など、小田原城を巡っての駆け引きばかりが有名ですが、関東一円でいくつかの戦いがありました。北条軍団が戦いもせずに小田原に逃げ込んだわけではありません。忍、川越、八王子…至る所で激戦を繰り返しています。

東海道を進んだ西国の軍隊は、比較的のんきに物見遊山気分で小田原城を包囲していますが、秀吉にしてみれば家康をはじめとする東国の大名には、できるだけ戦力の消耗をさせたいのです。徳川、上杉、佐竹…彼らの力を削いでおきたいのと、北条に過酷な処理をさせて、実行犯の家康に恨みを抱かせたいと思っていたのです。

このとき既に、秀吉は北条の後釜に徳川を移封するつもりでいました。

出来るだけ、家康が困る情況を作っておきたいと腐心していたのです。その意味では北条方に、簡単に降参してもらっては困るのです。降伏勧告などせずに、徹底的に攻めて、皆殺しにしたいという思惑がありました。

秀吉は「無血開城を好んだ武将」ということになっていますが、こと、北条攻めでは全く違います。北条と徳川を戦わせるために、色々な細工までしていましたね。このあたりが政治の汚さです。秀吉にとって北条は既に眼中になく、家康対策ばかり考えていたのです。

自軍の戦力消耗をより少なく…と、降伏を受け入れた前田利家や、上杉景勝は叱られます。

秀吉の口車に乗せられて勇敢に戦った井伊、榊原は、家康に叱られます。虚々実々。

64、三成は自らの構想を語りだした。端的に言えば、三成の国家構想は、すべての権力を関白秀吉の下に一元化することである。すなわち――中央集権。
鎌倉幕府以来、日本の武力政権は、自治を認められた武士たちのゆるい連合体の上に、征夷大将軍が君臨する、――地方分権。
三成の言うように、中央集権体制にすれば、確かに国家の力は強まるだろう。
その結果、治安が良くなり、民の暮らしは安定し、経済も発展していくに違いない。

中央集権・帝国構想は、三成の構想というよりは、秀吉が信長から受け継いだ構想です。

この構想に肉付けをして、細工をくわえて、より現実的な姿に企画案をまとめたのが三成です。中央集権、天皇の権威と秀吉の軍事力を組み合わせて、官僚主導の統一国家を作るという案で、後に明治政府が作った大日本帝国と構想は似ています。

軍隊の指揮命令系統を一元化するためには、兵農分離を行わなくてはなりません。

農民兵が「一所懸命」土地を守るために戦うのではなく、軍事専門職としての兵士を育成し、中央政権の直属にしなくてはならないのです。刀狩がその第一弾ですね。

朝鮮出兵は、統一政府軍としての演習ではなかったか? そんな気もします。

「韓(から)に道案内させて大明国を」というのは秀吉一流の大法螺、大風呂敷で、朝鮮を日本の領土にしようとしていたかどうかも疑問が残ります。やることが中途半端なのです。

秀吉の指揮の下に、遠征軍を一元管理してみようという、実験、すなわち軍事演習だったように想像します。ともかく謎が多いですね。

それに対して家康が考えていた統一国家は鎌倉幕府をモデルにした封建制、すなわち藩幕体制です。この頃から家康の頭の中には、次の政権への構想が芽生え、頼朝の事績を記した「東鑑」を愛読書にしていました。

家康の家臣たちは故郷を離れることに抵抗感を持ちますが、家康自身にとっては尊敬する頼朝が幕府を開いた憧れの地です。領国も倍になりますし、動員兵力も倍になります。

実力を涵養して次の政権を狙うにはまたとないチャンスでした。

「石垣山のツレション人事」などと有名になりましたが、双方が事前に納得しあっていたのです。ツレションでも、茶飲み話でも、酒の上の戯言でも…伝達の形式はどうでも良かったのです。

ただ…二人に腹の中では、全く違う思惑が渦巻いていました。

秀吉政権の大きな事跡として刀狩と太閤検地がありますが、この発案者は誰だったでしょうか。検地は物差しの長さを統一し、しかも、それまでより寸法を縮め、税収を増やそうという姑息さがありますから事務官僚の発案でしょうね。こういう知恵は、頭の良いものでないと出てきません。実に巧妙に、知らない間に増税されてしまいますから農民は騙されてしまいます。まぁ、一種の詐欺ですね。

もう一方の刀狩、これは軍事や軍事組織に精通しているものでないと出てこない発想です。

私はこれを発案したのが、徳川から秀吉の元に走った石川数正ではないかと、勝手に考えております。勿論、証拠も、文献も、何にもありません。

65、家康の移封は北条攻めの功によって、行われたことになっている。
三河、遠江、駿河、信濃、甲斐5カ国有していた家康の旧領130万余石。これに対し新たに関東に与えられた領地は250万余石。領地の面から言えば、大幅な加増であった。
しかし、家康にとっては本拠地の三河から切り離される上、新領地となる関東の地は北条氏が5代に渡って君臨してきたため統治が極めて難しく、不利な条件のほうが多かった。無論、そこには秀吉の政治的思惑がある。

関東平野、日本最大の平原ですが、俗に関八州といわれる大平原で、僅か250万石しか米が取れなかったというのは意外です。当時の農業技術、特に土木技術が未発達だったようですね。灌漑用水を引き回すほどに、土木技術が発達していなかったのでしょう。

関東平野には「原」の付く地名が随所にあります。草が生い茂った荒地が広がっていたものと思われます。利根川、多摩川、荒川などの大河もありますが、河川の暴れるのに任せて、湿地帯が放置されていたのでしょう。二宮金次郎が開拓で功績を挙げたのは、江戸時代も末期になってからのことです。

家康自身は、自身の戦略に基づいて関東移封を歓迎しますが、家臣たちは反対です。

先祖伝来の土地を離れて、見ず知らずの、しかも政治の中心から遠い、不毛の関東平野に放り出されるのですから、「左遷」としか考えが及びません。

そのうえ、家康は家臣たちに大俸を与えません。直轄領を多くして、代官に治めさせる方式を取りました。このあたりにも数正事件の後遺症が残っていますね。家臣が力をつけすぎては、秀吉の誘いにあって裏切られた時の被害が大きいのです。

家康の旧領のうち駿河、遠江は織田信雄に与えられましたが、信雄は転勤を拒否しました。

未だに旧主気分で、秀吉を甘く見ていましたね。待っていましたとばかりにクビにされ、水戸の佐竹家へと島流しです。時勢が見えていないボンボン育ちの悲劇でした。

ともかくも、家康が自力で勝ち取った東海と甲信の地は秀吉の直参たちによって固められます。東海道は中村一氏、山内一豊、堀尾茂助、田中吉政…という面々です。もう一つの中山道も真田昌幸、石川数正、木曾義昌などが家康の西上を妨害します。もちろん北には佐竹、蒲生、上杉が取り巻き、家康封じ込めの布陣は完璧でした。

66、貴殿の目指すところは崇高だが、いま少し、人の情というものをわきまえたほうが良い。人は理屈だけで動いているわけではない。誰にも心がある。政策の実現のためには、理と情の間を見据えるべきではないか。

三成の欠点とされ、頭脳派の欠点とされ、官僚の欠点とされたものが、今も昔も、この部分「情に疎い」です。日本人の習性を表す言葉で、少々、小ずるいセリフです。

理屈に負けた時は、必ずこの言葉が出てきて、正論を封じこめます。

「世間様」という神様モドキが登場して、改革を封じこめます。

この場合、豊臣政権というか、商業資本中心の政権を永続させるためには、三成の改革構想を推し進めるべきでしたね。平民出身の秀吉だけに、全面的に三成の計画を支援していたと思います。秀吉のブレーンの中で、三成のこの構想の支援者は、やはり、商人出身の小西行長くらいしかいなかったと思います。

兼続にしても、三成の構想に魅力を感じますが、所詮は越後の田舎者です。あまりにも現実離れした計画に、実現困難とみての忠告です。しかし、どこが欠陥かという点が分かっていません。したがって、雰囲気を指摘するのです。時期尚早だと…。

この言葉、実に便利ですね。

そっくりそのまま、現代でもよく使われています。日本社会を代表する「忠告の言葉」で、何にでも応用して使えます。正しい代わりに、何の役にも立ちません。

ゴルフなど球技でのアドバイスに「ヘッドアップしていたねぇ」という言葉があります。

それと同じく、絶対に間違っていない指摘で、しかも何ら改善を促すことはありません。アドバイスを求められたら、この種の言葉を吐くに限ります(笑)

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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