雪花の如く 第32編 露と落ち
文聞亭笑一氏作”雪花の如く”を連載します。NHK大河ドラマ「天地人」をより面白くみるために是非ご愛読下さい。
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雪花の如く

第32編 露と落ち

文聞亭笑一作

秀吉の病状が進んでいきます。痛みもなく衰弱していく病状ですから、現代風の病名は  分かりませんが、肝臓、すい臓のような「物言わぬ臓器」の疾患だったかもしれません。

醍醐の花見を終えたあたりから、「秀頼に忠誠を誓え」と誓紙を取り出します。 誓紙など何枚書いたところで、ただの紙切れと、誰よりも良く知っている秀吉だったはずですが、何かのよりどころが欲しくなります。

絶対君主が死ぬ間際というのは、実に哀れな醜態をさらけ出します。どこかの国で、今も、絶対君主がジタバタしていますね。やっぱり、誓紙、契約書の類をかき集めているのではないでしょうか。最後の功績を残そうと、原爆とミサイルを誇示して、断末魔の醜態を演じているようにも見えます。こういう人の巻き添えを食ったらたまりませんねぇ。

創業社長という種族も、多かれ少なかれその傾向が出やすいものです。早々に後継者を指名して会長職に退き、2代目が頼りなければ3代目まで指名してしまった家康のほうが利口です。尤も、こういう院政も困りますけどね。(笑)

ともかくも、秀吉の病状は急速に悪化していきます。権力者の死は、政争の火種です。

80、「人の一生は博打を打つようなものです」
「そうかもしれませぬな」
低くささやきを交わす姉弟の眼下で、京の町の火が揺れていた。

真田の姉弟が、清水の舞台から京都の町を見下ろしています。 間もなく、彼らのヤドリギであった秀吉が死ぬことが見えています。

上田6万石、この程度の経済規模、兵力動員数では政争の主役にはなれません。次のヤドリギを豊臣にするか、徳川にするかを選ばなくてはならないのです。

父の昌幸は、その動物的感覚で武田から北条へ、北条から徳川へ、徳川から上杉へ、そして上杉から豊臣へと、渡り歩いてきました。いわば転職の名人です。

テレビでは、意地汚く、狡猾な姿に描いていますが、倒産しそうな会社にしがみついているのは、決して褒められたことではありません。企業経営にとっては、生き残るということが何よりも大切で、倒産してしまったら、大切な従業員を路頭に迷わせ、培った技術もノーハウも、雲散霧消させてしまいます。これは社会的罪悪の一種です。

提携する親会社を換える、こんなことは当たり前で、寄らば大樹の陰、勝ち馬に乗るというのは、経営の鉄則です。

ただ、真田の場合は変わり身が早すぎたのが災いして、誰からも信頼されていなかったのが、大企業に成長できなかった要因です。上田城も北から上杉、東は千石権兵衛、西は石川数正と出口を封鎖されていましたから、成長しようにも身動きが取れませんでした。

その封鎖網が解けるかもしれません。千載一遇の成長のチャンスです。一方では、提携相手を選びそこなえば倒産の危機です。バクチ…大博打になります。しかも、上田は中山道の江戸と大阪を結ぶ中間に位置します。どちらに付くにしても株価?は十倍近くに跳ね上がります。まさに仕手株会社です。姉の得てきた情報を分析しながら、一世一代の投機の相談です。京の町の灯は、さながら、株価を速報する電光表示に見えたことでしょう。

81、石田三成を前に、兼続は自らの政治論を展開した。
「この世は、人の集団で成り立っている。人それぞれ顔かたち、体つきも違えば、ものの考え方も違う。その十人十色の人の心を、完全に一つにまとめることは不可能に近い。である以上、上に立つものはさまざまな意見の中間に立ち、折り合いをつけながら、最終的に集団を正しい方向へ導いていくべきだ」

義を貫く…、正しいと信じる道を真一文字に…、という点では、石田三成のほうが正論でしたね。「家康は悪いやつだ。彼を取り除かなければ、信長・秀吉と続けてきた改革路線は頓挫し、元の幕府体勢に戻ってしまう」と正義の旗を掲げていました。

ただ、直線思考が過ぎて「家康に味方する者も同類で、悪い奴だ」と、本来彼の仲間であるべき、清正、正則、長政といった幼馴染までをも敵に回してしまいました。直線的… 一次元発想の怖さです。

日本人はこういう一次元の発想が好きで「白か・黒か」「敵か・味方か」「1か、0か」というデジタル発想が得意です。これが現代では良いほうに出て電子、情報関連産業を産み、育てているのですが、悪い面も多いのです。特に国際問題のような複雑な問題では、あまたの失敗を繰り返していますね。

少なくとも二次元で考えなくてはいけません。家康派か、三成派かという座標軸で見たら加藤清正は反三成派の筆頭です。黒田長政、浅野行長など朝鮮で苦労してきた連中もそうです。不倶戴天の敵と嫌っています。福島正則などはそれほどではありませんが、こちらは家康の娘婿という義理から家康に近い立場で、清正とは幼馴染ですから、仲間たちと行動をともにします。清正と正則は立場が違うのです。

加藤清正 徳川家康
黒田長政 藤堂高虎
毛利輝元 伊達政宗
前田利家 蜂須賀家政
大谷義継 福島正則
佐竹義宣 浅野長政
上杉景勝(兼続) 小早川秀秋
石田三成 宇喜多秀家

縦軸に体制派か、反体制派かというものさしをおきます。下が三成政権党、上が野党です。

横軸に三成が好きか嫌いかというものさしです。左が好き、右は嫌いです。

右上と左下に、当事者が来るのは当然ですが、5大老といわれた人たち(太字)も、入っている象限が皆、違います。家康にはっきりと対抗表明しているのは上杉主従だけで、毛利家などは当主と吉川、小早川、安国寺の4人が全部別々の象限になりますね。

浅野にしても、親父と息子は立場が違うのです。

これにもう一つの軸を加えなくてはいけません。野心という軸です。政権担当意欲です。

3次元マトリックスは面倒なので書きませんが、表に挙げたメンバで言えば、政権意欲の最も強いものは家康、伊達政宗ですね。

その気がないほうでは清正、正則などの秀吉直参や、上杉景勝でしょう。

秀頼のNo2として…となれば、三成、利家、宇喜多などが来ます。

更に情勢の変化に応じて、銘々が箱を移り変わります。確たる信念もなく、「秀頼様大切」だけを旗印にした福島正則などは、4つの箱をせわしく移り変わります。関が原戦では、豊臣つぶしの大活躍をしてしまいますからね。最高殊勲選手というか、ピエロです。

いずれにせよ、物事は最低でも二次元で見なくてはいけません。

「Goか、NGか」こんな提案書を部下が持ってきたら、叱りつけましょう。

「世の中は、そんなに単純なもんじゃねぇ」と…(笑)

82、「闇討ちのような卑怯な手立ては上杉家の家法にもとる。天は人の行いを見ている。道にそむいた行いをすれば、かえって人心は離れ、豊臣家の滅亡を早めるだけだ」
「石田殿は石田殿…。上杉は上杉のやり方で参ります。 ただ、相手はあまりに大きく、しかも老獪。伊達と徳川の縁組は、我らを挟み込む 狙いでございましょう。奸智に奸智を以って応ずるのではなく、あくまでも正々堂々と勝負を受けて立ちましょう」

大阪で、家康暗殺未遂事件というのが起きます。 秀頼に挨拶するために、伏見から出てきた家康が、刺客に狙われたのです。

家康は秀頼への挨拶をすっぽかして、伏見へ逃げ帰ります。「石田三成が犯人だ」と騒ぎ立てます。清正と三成の争いに便乗して、騒ぎを大きくしたのです。政局ですね。

この事件、本多正信の陰謀、家康の自作自演の演技である可能性が高そうです。 三成の家老・島左近が計画したようではありますが、実行する気はなかったようです。

ただ、家康はこのことを大々的に宣伝しましたから、反三成派が武装して伏見に集結します。三成の盟友である兼続さえ、噂を信じて、景勝と相談をするのですから、清正を中心にした勢力は、「三成を殺せ」との大合唱が起きます。こうなると安保騒動、大学紛争と一緒です。ムードに支配されて理性などは消し飛びますね。

石田三成は優秀な官僚でしたが、部下にした者たちが悪すぎました。5奉行というのが、行政執行機関でしたが、本来なら長官に祭り上げるべき浅野長政を無視しすぎました。

浅野長政を前面に押し立てておけば、秀吉の一族なのですから、表立った抵抗は封じ込め出来ました。先輩の顔を立てるのも大事なことです。

内閣の大臣(子分)も悪かったですねぇ。増田長盛、長束正家…典型的な経理事務員です。もう一人の福原右馬介、こちらはゴマすり名人です。

イエスマンばかり揃えると、裸の王様になります。イエスマンほど裏切りますからね。

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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