紫が光る 第34回 針の莚
作 文聞亭笑一
前号は、またも先走りをしたようです。放送はまひろの出仕の場面まででした。
出仕の場面・・・冷たいお出迎えでしたね(笑)そうなった理由は・・・
1,出自が低い
2,にもかかわらず・・・左大臣のお声掛かりで出仕
3,物書き専門の役割で、雑事から解放されている
・・・と、特別扱いされることに先輩の、ベテランのプライドが「カチン!」ときました。
お局様達にとっては「秩序の破壊」になります。
なにかにつけてイビリ・イジメの対象になります。
藤式部(まひろ)の地位
彰子の後宮・藤壷にも厳格な序列があります。
侍従する女達のリーダというか、トップが
①宣旨の局、続いて
②大納言の局、
③宰相の局、
④小少将の局、
⑤宮の内侍・・・
ときて、この後に「その他大勢」となるようですが藤式部は
⑥の扱い「物語を執筆する専門職」のような立場が与えられたようです。
中宮が外出する際には女官達も牛車で移動しますが、序列に従って順に乗車します。
その時の藤式部の乗車順は8番目だったと云います。
総勢30名の大移動でしたが、新参にしては上位でしたね。
赤染衛門や和泉式部よりも上位にいます。
永年勤めてきた先輩にとっては面白くありませんね。
当然?? 冷たく当たります。
藤壷における藤式部の評判は
「ひどく風流ぶって・・・」
「気詰まりで」
「近付きにくく」
「よそよそしい様子で・・・」
「物語を好み」
「気取っていて」
「何か言うとすぐ歌を詠む」
「人を人と思わず」
「憎らしげで」
「人を軽蔑した眼で見る」
・・・という、自分に対する評判を耳にした・・・と、紫式部日記に書き残しています。
すぐ歌にする・・・と言われても、式部は藤壷での暮らしを歌に詠み、日記に記します。
身の憂さは 心のうちにしたいきて いま九重ぞ思い乱るる
「九重」に、「宮中」と「憂さが重なり合う様子」の双方を掛けて、悩みの深さを詠みます。
「何か言うとすぐ歌にする・・・」それが秀歌なので、先輩には・・・ますます嫌な奴になります。
式部は彰子のゴーストライターというか、歌の代作もしていたようですね。
同じく藤壷女房として新参の伊勢大輔が、奈良から送られた八重桜に道長から「歌を付けよ」と云われ
いにしえの 奈良の都の八重桜 けふ九重に匂いぬるかな (伊勢大輔・百人一首)
と詠ったのに対し、彰子中宮がすぐに返歌しています。
九重に 匂うをみれば桜狩り 重ねて来たる春をぞと思う (中宮・彰子)
これは紫式部に依る代作だと云われています。
打てば響く・・・と言った素早さです。
「出る杭は打たれる」「雉も鳴かずば撃たれまい」「新参イジメ」などという日本的伝統は既にこの頃から根ざしていたらしいですね。
公家文化、京文化というのは余所者を排除して、自分たちだけの既得権を守り抜いてきました。
京の都では「身内」と認めてもらうまでが大変ですが、一旦身内と認定されれば、結構・・・居心地の良いところでもあります。
里下がり自由の特権
宮中女房、お局様というのは基本的に住み込みで、帰宅は許しがなければ出来ません。
ところが、式部・まひろの場合は「執筆が進まない」と云えば里下がり自由だったようで・・・、自宅に引揚げてしまいます。
「物語を書く」⇒「一条天皇に読んでもらう」⇒「一条がそのために藤壷を訪れる」
⇒「来たら泊まることもある」⇒「懐妊する可能性がある」
道長が期待したのは「風が吹けば桶屋が儲かる」ような論理で「まひろの書く物語が面白ければ彰子が懐妊する」という念いです。
そのためには天皇の連想を刺激する意味で舞台が宮中の方が良いし、登場人物も身近な人を連想させる方が良い、さらに女性を求めたくなるような・・・扇情的な中身が良い・・・、つまりエロ本的要素もほしい・・・となります。
物語はどういうタイミングで、どういう単位で天皇に届けられたのでしょうか。
一帖・・・一話単位で、当初は月刊誌、そのうち月2程度に増えたかも知れません。
新刊が発行されるごとに一条天皇は藤壷に渡ってきます。
まずは黙読する ⇒誰かに読ませ、物語の世界を味わう ⇒その場にいる者たちに感想を述べさせる ⇒天皇も意見を言う ・・・読書会、読後評論会ですかね
その場に作者がいた方が良いのか、いない方が良いのか・・・いない方が良いでしょうね。
ネタバレというのは面白くありません。
モデルが誰か・・・わからないから、時代がいつか・・・わからないから(いずれの御時にか・・・)想像が膨らみます。
オール藤原物語
登場人物が・・・どれもこれも藤原でわかりにくい・・・というのが今回の大河ドラマです。
その通りで、藤原ドラマですね(笑)。
今回、ドラマに登場する時代の「藤原さん」の家系図を天皇家との関係で描いたものを「世界の歴史まっぷ」からご覧ください。
まずは「道長」を探してください。そこから前後左右を辿ってみてください。
別系統・・・上段に実資、公任、行成などの名があります。
この藤原さん達ですが、平安末期になり世が乱れてくると改姓を始めます。
佐藤さん・・・佐(すけ)の藤原・・・地方行政の「佐=次官」を名乗ります。
後藤さん・・・越後、備後、肥後など、「後」とつく国の守・介・丞・・・役人ですね。
伊藤さん・・・伊勢の藤原、加藤さん・・・加賀の藤原、武藤さん・・・武蔵の藤原、・・・・・・
「藤原」を名乗ることは「お上」の権威を使うことになります。
四姓とか云い、源平藤橘などと云いますが源平は天皇家の血筋です。
そして藤原、橘ですが「橘」がパッとしませんね。
奈良時代に一世を風靡した「蘇我」「物部」は後世の歴史に登場しなくなりました。
「大伴」も出てきません。
一方で「海部さん」「服部さん」「渡部(渡辺)さん」など先祖代々の職業を苗字にする家系は健在です。
いずれにせよ、今年のドラマは「藤原家物語」です。
登場人物の殆どは「藤原さん」です。
姓名の「名」の方は、ファーストネームだけで人物を理解してください。
ユースケ・サンタマリア、ファーストサマーウイカ・・・変な芸名の役者が登場しましたね。