どうなる家康 第34回 鳴かせてみせよう時鳥

作 文聞亭笑一

前回は「本能寺の変」と並んで戦国ミステリーの一つ、「数正出奔」が描かれました。

石川数正・・・、歴史書を書いた人によって、また現代の歴史作家によって描かれ方が大きく異なる人物です。

不肖・文聞亭も「煩悩の城」というタイトルで石川数正を主役にした作品を書きました。

数正は家康の幼少の頃からの兄貴分で、織田、今川の人質時代から側近として仕えてきています。

それだけに・・・「なぜ?今更・・・」という疑問が払拭できないのです。

数正出奔の理由については幾つかの仮説があります。

① 徳川・豊臣の実力比較から、秀吉には勝てぬと確信・・・従属路線を提案

家康を説得しようとするが・・・拒絶されて、行き場を失った

② 秀吉との交渉ごとを「弱気」と批判され、徳川政権の主流から追い出された

  買収された・・・などと批判され、若手から暗殺される危機さえあった

③ 世子を家康の次男・秀康につけて秀吉の元に送った。

秀康が徳川家を継ぐことはない・・・石川家は分家の家老になり、政権に参加できない。

④ 数正は「岡崎城代」「西三河の旗頭」だが、石川本家の頭領は石川家成(叔父)

   子供の代には、傍流だから政権に参加できないかも知れない

元々、数正家が本家だったのだが、三河一向一揆で父が家康に逆らい、権利を失う

⑤ 家康のスパイとして豊臣政権に潜り込む

豊臣移籍後は秀吉から無視された形になっている。

誘ってはみたものの・・・秀吉がスパイと警戒したのではないか?

8万石をもらいましたが・・・河内、和泉で飛び地ばかりの寄せ集め・・・計算上の8万石

城を作るような中心地がない・・・架空の領国・・・このことで、石田三成と対立

⑥ 家康との感情の行き違い・・・家康は数正に恨みを抱いていた?

岡崎で信康や、築山殿を管理監督するのは城代・数正の仕事

数正がしっかりと監視してくれていれば、妻と子を殺さずに済んだものを・・・

こういう怨恨説を採る作家、学者は、本能寺も光秀の怨恨説です(笑)

⑦⑧⑨・・・一杯あります(笑) 

数正本人に聞かないとわかりませんね。

ともかく「徳川家に居場所がなくなった」と言うことです。

いずれにせよ・・・ルンルン気分での移籍、転社ではありません。

豊臣と徳川が戦争にならないように・・・それだけの想いでしょう。

老兵は死なず・・・消え去るのみ  でしょうか

軍制改革

数正の出奔で「徳川家の機密がすべて漏れる」と危機感を煽り、徳川家内部の構造改革を進めたのが家康と本多正信のコンビではなかったかと思います。

テレビでは本多平八、榊原、井伊などが政権の中枢として意見を言っていますが、これまでの徳川家は18松平と言われる親藩や、酒井、大久保、石川、鳥居など・・・古参の与力衆が家康の自由を拘束してきました。

テレビで観るような徳川政権の閣議は・・・実は数正の出奔以降の形態です。

平八や榊原、井伊が閣僚になれたのは、数正出奔以後です。

上洛要請

秀吉の「上洛要請」は徹底しています。執拗です。

小牧・長久手の戦いで「負けた」とは言いませんが、「徳川は強い、だから再戦はしない」と、外交戦術に徹します。

この辺りが秀吉の優れたところで、無理押しをしません。

信長なら「殺してしまえホトトギス」ですが、手を替え、品を替え、「鳴かせて見せようホトトギス」をするのが秀吉流でした。

家康への上洛要請はその真骨頂ですね。

そして、その事が・・・天下統一、惣無事令・・・戦争禁止令・・・へと、発展していきます。

妹・朝日姫を家康の正室に送り込む

現在の夫婦関係を壊す・離婚させて、再嫁させる・・・現代人の感覚からすると「ありえへーん」所行ですが、その事が、佐治家(婚家)の発展に繋がれば「歓迎」するのが当時の常識です。

当時の「家」というのは現代の「会社」です。

会社には社員、従業員が数多いますから、社員達の幸福を考えなくてはいけません。

離婚の代償が従業員の所得倍増だったら・・・佐治社長の好いた、惚れたよりも家臣たちの利益が優先します。

女流作家は「ケシカラン」と秀吉を批判し、ついでに家康まで批判して、朝日姫を鬱病にしてしまいますが・・・当人がどう感じていたのか???

もしかして・・・兄は関白と、中納言に出世し、姉ちゃんの息子(秀次)は兄の後継者、私だけ置いてけぼり・・・が、東海の雄・家康の正室となれば、釣り合います。

喜んで東海地方に嫁入りしたと思います。

最近、言葉・・・方言が懐かしくなりました。

朝ドラの「らんまん」で万太郎の発する土佐言葉に安らぎを感じます。

娘の嫁入り先が土佐人で、会社時代の仲間にも異骨相先生がいて、坂本龍馬が大好きで・・・土佐弁を耳にすると太平洋が見えます。

「地球はやっぱり丸い」

切り札投入

朝日姫を嫁にしても・・・家康は動きません。

信長の「安土招待」そして本能寺、さらには伊賀越えの苦心惨憺・・・そういうトラウマが上洛を拒否します。

京、大坂は家康にとって鬼門です。

暗殺されない保証・・・それがないと動けません。

プーチンとゼレンスキーも同じ事ですが、二人で「膝詰め」すれば何某かの解決策がでるかも知れません。

しかし、たがいに暗殺されるリスクがあります。

ワグネルのブリコジンは民間機で移動中に、地対空ミサイルで撃ち落とされて暗殺されてしまいました。

絶対的保証・・・それがないと・・・動けません。

それに母親を使った!! 秀吉の凄さはこの一事に濃縮されます。

鳴かせて見せよう時鳥

「日本国の統一」そのためなら何でもする・・・戦国を終わらせた一大決心でしょうね。

今回は家康が主役ですから映像にできないでしょうが、「家康を上洛させる」という政治目標のために、秀吉一家はすべての英知と情報を集めたと思います。

そのプロセスを物語にすれば映画が一本できそうですね。

母、姉、妹、妻、弟・・・秀吉一家が集まります。

一家を挙げての大命題が「何としてでも家康を大阪に引っ張り出す。それで戦国は終わる」

秀吉の母が井伊直政を気に入って・・・と物語は書きますが、アンチ秀吉の代表格「直政を籠絡して」というのが婆様の狙いかも知れません。

婆様まで・・・鳴かせて見せよう時鳥