雪花の如く 第40編 武備恭順
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雪花の如く

第40編 武備恭順

文聞亭笑一作

米沢はそれほど大きくない盆地です。海もなく、盆地の中を最上川の上流である松川や、羽黒川が流れます。以前にテレビで大ヒットした「おしん」の郷を連想していただければ、自然環境の辛さがお分かりいただけるかと思います。

その地に、兼続、景勝は城を作りませんでした。以前からあった城のまま、住まいます。 ところが、堺から鉄砲鍛冶を呼んで、鉄砲の大量生産に掛かります。

しかも、その鉄砲は従来のものより大型で、射程距離の長いものを千丁です。それまでに上杉は従来型の鉄砲を千丁保有していますから、合わせて2千丁。軍備大増強ですね。

さらに、火薬の材料である煙硝も、領国内で大量生産します。 それを、徳川の隠密、本多政重の見ている前で、堂々とやってしまいます。

まるで、現代の北の将軍がやっている核開発、ミサイル開発そのものですねぇ。北の将軍は秘密主義ですが、兼続は白昼堂々とやってのけます。査察団の国外退去なんてしません。

娘婿の政重に差配さえさせますから、徳川幕府にはミエミエですね。

108、一方で徳川幕府に恭順の意を示しながら、他方では、大規模の戦闘に備えた鉄砲の大量生産を始める―――
すなわち、武備恭順の思想である。 これこそまさに、兼続が考え出した生き残りの秘策に他ならない。

全くもって…現代の北の将軍と同じです。徳川幕府に当るのが中国でしょうね。 「やめろ」というのは簡単ですが、陸続きですから本気になって玉砕をやられたら、被害が大きすぎます。折角の経済成長が台無しにされてしまいます。

それに、大阪城には豊臣秀頼が健在です。今の北朝鮮とは状況が違います。 むしろ、そういう情報が豊臣恩顧の大名に漏れるほうが、家康にとっては困るのです。

肥後・熊本の加藤清正も巨大な城を建設中です。忍びの報告によれば、大阪城以上に難攻不落の城だとかで、しかも、本丸御殿は秀頼の避難所にする目論見があるのではないかと推測されています。

九州の火薬庫ですね。これが爆発すれば、鹿児島の島津、佐賀の鍋島、そして、豊後の黒田や筑前の細川、安芸の福島もどう動くか分かりません。ともかく、上杉以上に怖いのが加藤清正なのです。清正は家康政権の連立与党ですが、徳川党ではないのです。清正は、豊臣党です。清正が反旗を翻したら、福島正則、浅野長政は確実にそむきます。さらに、上杉、小早川、毛利、島津、鍋島が加担し、小早川、前田、伊達などは日和見します。

兼続の動きを、見て見ぬ振りをしつつ、これらの大名の動きを牽制しなくてはなりません。 徳川幕府も磐石ではないのです。軍備に目くじらを立てるよりも、軍事を支える経済力を弱らせなくてはなりませんからね。

外様大名の軍事力を弱めるために、家康が打った手は、城普請と河川改修です。 現代で言えば、「ハコモノ造り」と「ダム建設」でしょうか。

江戸城の修築、名古屋城の建設、木曽川の改修など、大工事の連発です。さらに、外様大名には広大な江戸屋敷を与え、華美さを競争させます。江戸には奥方や世子を人質として住まわせますから、女たちの虚栄心も働いて、豪華な江戸屋敷が続々と建設されます。

上杉も、桜田門の前に、広大な屋敷を造らなくてはならなくなりました。江戸城修築の手伝いに借り出されます。

清正は名古屋城、島津は木曽川…、危険分子は狙い撃ちで、大工事の建設担当です。 いずれも借金地獄に放り込まれ、島津などは、その恨みが明治維新まで残ったと噂されています。

109、兼続の見たところ、家康の狙いははっきりしている。
<俺の目の黒いうちに、将軍は徳川家の世襲によるものであると、天下に示しておきたいのであろう>
秀頼生母の淀殿や、その取り巻きである豊臣家の重臣たちは、将軍職は一時家康に預けたもので、いずれ秀頼成人の暁には、豊臣家に覇権が戻ってくると思い込んでいるような節がある。

家康が将軍になってから僅か二年。将軍職を秀忠に譲り、大御所になります。 死んでから相続させるのではなく、生前贈与して諸大名の反応を見る、このあたりが狸親父のしたたかさです。

ほとんどの大名たちは、兼続同様に受け止めました。徳川の天下が続くと判断しましたが、唯一の例外が、大阪城の女たちでした。甘い、世間知らず、と言えばそれまでですが、政治、軍事と言う「現場」を知らない官僚たちの担ぐ神輿に乗っていたら、気がつきませんね。「…のはずだ」と思い込んでしまっていますから、変化に気がつきません。

「茹で蛙」という教訓があります。ご存知の方が多いと思いますが、蛙を常温の鍋に入れて、ゆっくりと温度を上げていきます。蛙は変温動物ですから、水の温度に体温をあわせていきます。15℃の水温が20℃になっても平気です。30℃くらいになっても、まだ気がつきません。「ちょっと暑くて、だるいな」と位にしか思いません。

40℃になります。流石に熱いと思いますが、そのときは、すでに手足の筋肉が弛緩していて、鍋から飛び出すことは出来ません。かくして、茹で蛙の出来上がりです。

大阪城の淀君や取り巻きの女たち、さらには、大野治長を筆頭とする官僚たちも、そのことに全く気がつきません。秀頼に家康の孫の、千姫をもらったことを、「人質をとった」としか思っていなかったのです。

大敗した自民党もそうでしたね。「政権は未来永劫に俺のもの」という驕りが、負けてみてやっと分かった? いや、まだ分からないかもしれません。総裁選びに、国民が期待するような候補者がいないという体たらくでした。

まぁ、他人のことを笑っていられません。企業も全く同じです。「未曾有(みぞうゆう)の経済危機」に遭遇して、右往左往です。労働組合も同じ。組合員の生活すら守れず、派遣や臨時工などは眼中にありません。日本社会全体が、いつの間にか茹っていたのです。

今回の不景気には「ミゾウユウ」という読み方が似合います。 「ミゾウ」などというレベルを通り越していますからね(笑)

110、「武士の義は死ぬことだけが真の目的ではありますまい。死をも怖れず、一切の執着から離れた風の如き境地に至ったとき、一筋の真っ直ぐな道が見えてくるのではございますまいか」
「それが武士道か」
「さよう、志に準じて死ぬことも、一つの道です。しかし、あえて全身泥にまみれながら生を貫き通すことも、また義の道。死ぬよりも辛い道かもしれませぬ」

景勝と兼続、彼らを育てたのは新潟の雪と、謙信の教えです。 その意味では米沢三十万石に移封されたのは幸運だったのではないでしょうか。

もし、四国の高知などに移封されていたら、彼らのしぶとさは発揮されなかったと思います。同じ日本海側の、気候風土の似通ったところだったからこそ、伝統の生き方が守れたのでしょう。治世にも、永年培ってきたノウハウが生かせたのです。領民との間の軋轢も、ほとんどありませんでした。これは、高知に移封された山内一豊とは大違いでした。

「義を貫く」これが景勝と兼続の背骨にある思想です。経営ポリシーです。 環境が大きく変わった今、景勝と兼続が「義」について再確認する場面が上記です。

死ぬよりも辛い道かもしれませぬ 

そうですね。死ぬのはかえって楽な道です。

会社も、法人と言う法律上の人です。会社の塩梅が悪いから、やめてしまおう…、と清算するほうが経営者にとっては楽ですが、従業員は堪ったものではありません。

一方で、企業人というのもある種の生命体です。「面白くないから会社を辞めます」という若者が増えていますが、こちらも同じですよね。辞めてしまえば、楽にはなりますが、再就職の道は険しく、失業保険が切れてからの生活は大変です。

「武士道とは死ぬことと見つけたり」という有名な言葉は、兼続と同時代の佐賀・鍋島藩を支えた「葉隠」ですが、この物語に登場する人物は、死にません。戦う前に「生きよう」という意思を捨てて、気持ちの上ではすでに死んでしまっていますから怖がらないのです。怖がらない、疑わない相手は怖いですねぇ。こういう相手とは喧嘩したくありません。

交渉ごとも、こういう心理と似たところがあります。相手を追い込みすぎると「窮鼠猫を噛む」反撃に遭います。兼続の態度には、家康も爪を噛んだことでしょう。爪を噛むのは家康が困ったときの癖です。

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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