雪花の如く 第43編 義の花
テレビドラマ「天地人」も今月が最終月、「雪花の如く」も、残りわずかです。最後の最後までお楽しみください。
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雪花の如く

第43編 義の花

文聞亭笑一作

豊臣家を裏から支えていた清正が死ぬと、あとを追うように盟友の浅野幸長が死に、北国の雄・前田利長も死にます。あまりにもタイミングが良すぎるので、毒殺ではないかと言う推論が絶えません。池波正太郎などは「忍者による毒殺説」を採っていますね。

清正と浅野幸長は二条城での会見に、左右から秀頼を護衛した二人なのです。それ以来、大阪城に出入りし、秀頼に「恭順」を説いていた忠臣でした。

熊本城への退去なども進言していたかもしれません。反抗させて潰してしまいたい家康から見れば邪魔者ですし、もう一方の徹底抗戦派である大野治長などから見ても、名誉を傷つける邪魔者です。どちらがやったかはわかりませんが、清正、幸長の死は他殺が匂います。

毒殺…殺人罪の仲でも最も卑劣ですね。証拠も挙がりにくいだけに犯人が特定できません。

117、7月・・・ついに徳川家康が仕掛けた。
徳川家康が目をつけたのは、豊臣家が京の東山に再建した方広寺の鐘の銘文であった。
所庶畿者  国家安康
四海施化  萬歳傳芳
君臣豊楽  子孫殷昌  ・・・・
国の繁栄を寿ぐ(ことほぐ)言葉を連ねた銘文は、京都五山の禅僧、清韓の起草によるものであった。この一見なんでもない銘文に、
「畏れ(おそれ)多くも、大御所様を呪い奉る(たてまつる)文言が含まれている」
家康側近の金地院祟伝が言い立てた。問題となったのは「国家安康」の4文字である。

ともかく、命を張ってでも豊臣家を守ろうとする大名が、いなくなりました。

「頃はよし」家康が仕掛けました。家康自身も、自分の健康が心配になりだしていましたね。自分の手を汚して、なんとしてでも秀頼を始末してしまいたかったのです。

「豊臣」がこの世にある限り、騒乱の火種は消えません。

国家安康 こんな言葉にイチャモンをつけるのですからムチャクチャですよね。 国家、社会が平穏無事でありますように…それ以外の読み方はありません。 理屈と膏薬は何にでも張り付くと言いますが、まさに屁理屈の典型です。

「家康の文字を『安』の字で分断している。これは、家康の首と胴体を切り離そうという呪文に違いない」というのが崇伝の理屈ですが、あきれて物も言えなくなります(笑)

ついでに 君臣豊楽 をも「豊臣を君として楽しむ」と読んでいます。 つまり、家康を倒して豊臣政権の復活を願う呪文だと解釈したわけです。

作者の清韓和尚も、あまりの馬鹿馬鹿しさにあきれて、反論する気にもならなかったでしょうね。ミエミエの言いがかりです。

ここから…片桐且元が必死の弁明をするのですが、家康の二枚舌に翻弄されます。 且元に対しては3択の選択を要求します。

@大阪城明け渡し or A淀君を江戸に人質 or B秀頼が江戸に来て臣従を誓え

一方、大蔵卿の局には「お咎めなし」と何も要求しません。

さらに悪いことには且元の報告を聞いた淀君が「OR」を「AND」と勘違いして、逆上してしまいます。「且元は裏切り者だ」と決め付けられ、急進派から暗殺されそうになって、 とうとう、片桐且元まで逃げ出してしまいました。これで、大阪城に秀吉や寧々が育てた大名は、一人も残らなくなってしまいました。

残るは、政治を知らない官僚達と、急遽呼び集めた浪人達だけです。

118、真田丸を見た兼続は『これは…武田の丸馬出しではないか!』と、目を見張った。
兼続は武門の意地を示した後、滅びるよりも上杉家を存続させることに自らの義を見出し、和平路線に舵を切って今日に至っている。
一方、流人となり、明日なき身となった真田幸村は、明らかに形勢不利な豊臣方につくことで、清冽な義の花を咲かせようとしている。

大阪は手切れと同時に浪人の大募集にかかります。関が原の残党や、一癖ある人物が巷に溢れていました。関が原で取り潰しになった石田、宇喜多、長宗我部などの大名家からは、大勢の失業者が出ましたが、使い道のある人たちは、それぞれに再就職しています。

安芸50万石に大躍進した福島正則や、土佐26万石に5倍増になった山内一豊などは、競って優秀な人材を採用しています。石田三成の家臣たちでも、その後に来た井伊直政に多数が再就職しているのです。

と言うことは…、大阪城に集まった浪人たちは、売れ残りです。 組織人として、難のある人物が多かったと言うことになります。

大多数はそういう人たちですが、指揮官として入城した顔ぶれは錚々たるものです。

徳川と決戦することのみに目標を絞り込んできた真田幸村。徳川にゴマを摺る黒田長政に愛想を尽かして飛び出した後藤又兵衛、宇喜多家の家老であった明石全登、関が原では動くに動けなかった長宗我部元親、改易された安曇城主の石川康勝、小倉城主だった毛利など実戦経験豊かなメンバも含まれています。

徳川軍20万に対して、大阪方は半分の10万ですが、大阪城という要塞の威力を加味すれば、戦力は全くの互角です。優劣を決めるのは戦略、戦術、戦法というソフトウエアの勝負ですね。それに、ヒュウマンウエアとしての意思統一が差別点です。

大阪方の弱点は人の和が全く欠けていたことでしょう。総指揮官がいません。

秀頼が先頭に立てば、真田幸村や後藤又兵衛といったベテランの戦術かが控えていますから、「よきに計らえ」で済むのですが、淀君が軍議にまで顔を出して、しかも、ゴマすりの大野治長が代官・総大将となりますから、女の会議です。何も決まりません。

決まったのは、大阪城の唯一の弱点である南側に真田丸を設けることだけです。

『これは…武田の丸馬出しではないか!』 そうです。武田信玄が川中島の海津城に築いた要塞構造です。半円形に張り出した陣地で、半円の、どこからでも出撃できる構造です。

兼続は海津城でつぶさに経験していますから、その恐ろしさを十分承知していましたが、ほかの大名はそのことを知りません。前田、越前松平などが知らずに攻めかかり、大損害をこうむってしまいました。千人近い戦死者を出しています。

大阪方が夏の陣で勝ったのは、ここ南方戦線だけでした。

119、両群の間で正式に決定した和睦の条件は次のようなものである。
一、籠城の侍たちは、何の咎めなきこと
一、秀頼の身上は従来と変わらないこと
一、淀君は人質として江戸に下らなくても良い
一、大阪城は内堀を残し、総濠を埋めること

家康は力攻めで大阪を落とす気は最初からありません。淀君に血を見せて怖がらせることが目的です。本丸に大砲を打ち込んで怖がらせ、和睦に持ち込む腹積もりです。

まんまと…引っかかりましたね。真田、後藤、長宗我部などは猛反対したのですが、家康の和睦条件にすんなり載ってしまいます。

四条件のうち、曲者は四番目です。総濠とは、豊臣方の理解は一番外側の堀のことでしたが、家康は「すべての堀」と、これまた拡大解釈です。講和と同時に20万人が土木作業員と化していっせいに堀を埋め立ててしまいます。障害物があってこそ城ですが…、堀がなくなってしまったら、兵力の差でしかありません。

こういう初歩的なことすら分からなかったとは、大野治長、治房、道犬という大野三兄弟は軍事音痴としか言いようがありません。これまた、家康には完全に読まれていましたね。

勿論、丸馬出しの仕掛けの真田丸も、完全に破壊されてしまいました。籠城すらできなくなってしまったのです。 関が原でもそうでしたが、大阪方が敗れた原因は「不適材不適所」に尽きます。

リーダシップのないものがリーダになり、軍事の素人が軍事作戦の采配を握り、外交能力のないものが外交をするのですから、相手の思う壺です。

現代の組織でもそうですよね。往々にしてこういう間違いをします。 組閣を情実や年功序列でやった政権は、必ず短期政権で倒れます。

企業でも、製造や開発育ちで、営業を知らないものが営業部長などをすれば、必ず顧客を失います。ましてや、現場を知らない事務官僚が、現場責任者などをすれば、良い結果が出ることはほとんどありません。

適材適所、言うは易く、行うは難しい事の典型です。 目利き、人を見る目こそが経営者に求められる最大の要件かもしれません。

【NHK大河ドラマ「天地人」をより面白く見るために!】
時代に生きる人物・世相を現代にあわせて鋭く分析した時代小説、ここに登場。
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